産官学連携の最前線から
人材交流・育成が
今後の産官学連携のカギとなっていく
――「場」としての産官学連携のほかに、取り組むべきポイントはあるのでしょうか。
中鉢 今後は人材交流が進むと良いと考えています。たとえば、企業から研究機関へ。または研究機関から企業へと。日本は社会環境の影響もあり比較的パーマネントなキャリア思考の人が多くなりがちです。すべてがイノベーションの阻害要因とは言いませんが、流動性の高いキャリアイメージを持つ人が多い海外では、人材を通しての技術や知識の交流が活発です。社会環境や意識の問題などの事情もあるため簡単ではないですが、日本でも産官学における人材交流が活発になっていくと良いと思います。
――いま産官学連携に求められるのは、どんな人材なのでしょうか。
中鉢 産官学連携のためには設備も資金も必要ですが、全体のグランドデザインができる人材が必要だと考えています。世界中のニーズをひろえて、最適なソリューションを提案できるような。
産総研では、そういった考えから「イノベーション・コーディネータ」の育成を進めています。連携プロジェクトの企画・立案や産総研の有する技術と企業・大学とのマッチングなど。産官学をうまくリンケージできる、コミュニケーション能力と技術的なバックグラウンドのある人材です。大学・企業での経験と専門分野に対する理解もあることが前提となるためハードルが高いですが、研究の育成からコーディネータの育成に目を向けていく時だと感じています。
「ものづくり」から「ことづくり」という
イノベーションへ
――イノベーションと言うと技術革新がメインでしたが、今後は新たな方向性はあるのでしょうか。
中鉢 新たな技術だけでは、もはやイノベーションは起こせません。マーケティングデータやサービス提供の仕方などを踏まえてビジネス全体をデザインし、社会や経済にインパクトを与えることこそが、本当のイノベーションとなるのです。つまり考え方が「ものづくり」から「ことづくり」へと変わってきました。「一芸は、百芸に通ず」ではないですが、各分野のスペシャリストがより深堀りすることで必然的に連携が必要となり、その結果、より素晴らしいイノベーションが生まれてくるはずです。
――産官学連携に対する、今後の展望をお話しください。
中鉢 とにかく、オープンイノベーションを進めていかないといけませんね。われわれ産総研としては、すべての企業、すべての大学に対して門戸を開き、何かあったら活用してもらえるよう、常に準備をしていきたいと思います。
ただその前に、まずは産官学それぞれが連携に対する意識を高めていくこと。コンセプトレベルからの改革が必要です。それこそが、日本の産業競争力の強化につながっていくと思います。