産官学連携の最前線から
この成長を確かなものにするために求められているのが、産官学連携によるイノベーションだ。今回は、昨年ソニー副会長から独立行政法人 産業技術総合研究所 理事長に就任した中鉢良治氏に、民間企業と公的機関という二つの視点から、産官学連携の今とこれからについて語ってもらった。
産官学の多様なニーズに応えられる
フィールドづくりが急務
――民間企業と公的機関の両方にいらしたご経験から、産官学連携の現状を教えてください。
中鉢 おもに産業界においてですが、企業規模や地域によって産官学連携に対する意識が異なっている、と感じています。中小企業の中でも、東・名・阪といった都市では、グローバル化を見据えながらイノベーションを目指している傾向があります。そのほかの地方では、即ビジネスになるフルソリューションを産官学連携に求めている。一方、大企業では自分たちのイノベーションに対して、補完的に官・学と結びつこうとしています。各産業に対して、個別の答えを出していく立場にあると感じました。
また以前と比べてコンセプトに賛同し推進していくべきだと感じているものの、誰が・どこで・どうやるかという具体策や議論するフィールドが少ないというのが課題ですね。
――「産官学連携のフィールドづくり」の、解決策はあるのでしょうか。
中鉢 本来であれば、もっと関心を持って産官学一体で推進し、研究開発全体に要するコストや期間短縮などに役立てていくべきですが、必ずしもそうはなっていないですね。やはり参加者の集め方、場の設け方が、議論をするポイントだと思っています。
たとえば産業技術総合研究所(産総研)では、産と学をシームレスにつなぐための活動を行っています。イノベーションの一つのかたちとして、基礎→応用→事業化という流れがありますが、基礎は学、応用は官、事業化は産と、それぞれのフェーズで力を発揮しながら流れをいかにスピーディにしていくかが大切です。最近では産官学共同シンポジウムを開催し、事例紹介や課題の共有化などをすることで、連携のフィールドを創出する取り組みを行っています。それぞれの縦割りだけでなく、横のつながりを広げていくことで連携は高まっていくはずです。
――横のつながりと言いますと、オープンイノベーションの現状はどうでしょうか。
中鉢 今までの日本企業は、技術の流出を恐れてブラックボックス化していた傾向がありました。クローズするとなると一切の情報も漏らさない、というように。そうではなくて、オープンすべきところとクローズすべきところの、ちょうど良いバランスを見つけていくべきです。さらに国内だけでなく海外に対して、どのように開いていくかも今後の課題だと思います。
産総研では、オープンイノベーションのハブとなる取り組みとして、共通プラットフォームとなる施設を設立しました。2009年にナノテクノロジーなどの研究を推進する茨城県の「つくばイノベーションアリーナ」、2014年には再生可能エネルギー研究の拠点となる福島県の「福島再生可能エネルギー研究所」。各施設で、国内外の大学や研究機関との連携はもちろん、機会創出のための取り組みが進行中です。その中でも「つくばイノベーションアリーナ」では、海外のイノベーション・プラットフォームよりも多く論文発表を行うなど、すでにさまざまな実績を残しています。