企業の「稼ぐ力」を高めるガバナンス強化 コロナ後を見越した攻めの経営に転じるために
――中小企業においても、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)などへの対応が必須になってくるということでしょうか。
伊藤 そのとおりです。大げさでなく、対応できない企業は取引してもらえなくなる可能性もあります。私はROEにESGの評価を加味した「ROESG」という指標を提唱しています。日本企業の間では、ROEとESGを二項対立で捉えがちですが、財務的なROEと非財務のESGをバランスよく両立させることが大切なのです。
非財務情報には、経営者のビジョンや環境対策などのほか、企業の人材面の戦略も含まれます。日本では従業員の「エンゲージメント(熱意や意欲)」が海外の企業に比べて低いとされています。20年9月には、私が座長を務めた経済産業省の有識者会議の議論をまとめた「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」を発表しましたが、日本の企業の多くで人材戦略と経営戦略が連動できていないのが課題です。
中小企業のパートナーとして顧問税理士の経営助言に期待
――伊藤さんは、経済産業省と東京証券取引所が発表した「DX銘柄2020」の評価委員長も務めていらっしゃいます。日本企業、とくに中小企業ではIT活用などのDX(デジタルトランスフォーメーション)がなかなか進んでいないようです。
伊藤 人的な経営資源に限りがある中小企業こそIT化を積極的に進めるべきです。このコロナ禍でも元気な中小企業はいくつもありますが、それらの企業に共通しているのは、従業員が意見を出し合い、生き生きと働いていることです。ルーチン業務を軽減し、本業に注力するのにもIT化が役立つでしょう。経営者にとっても、自社の経営状況をリアルタイムで把握できれば、経営戦略を立案し、実行するという経営者本来の仕事ができるようになります。
もちろん、数字をデジタル化すれば、顧問税理士や金融機関などへの情報開示も簡単に行えますし、電子帳簿保存法などにも対応できます。
――人的リソースの限られた中小企業では、経営の支援を行うパートナーとして、顧問税理士の役割も大きいと思われます。
伊藤 税理士の業務の中では、決算書の作成が注目されがちです。しかし、これからはますます経営助言の専門家としての役割が期待されるところです。関与先企業の無形資産も視野に入れながら、持続的な成長を目指し、何が必要なのかをアドバイスし、実行する、中小企業と税理士が一緒に成長できる関係をつくってほしいと思います。