企業の「稼ぐ力」を高めるガバナンス強化 コロナ後を見越した攻めの経営に転じるために

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日本企業が今、コロナ禍による厳しい経営環境に直面している。ROE(自己資本利益率)目標を盛り込んだ「伊藤レポート」を2014年に発表した一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏は「こういうときだからこそ、守りではなく、攻めのガバナンス改革が必要」と指摘する。とくに中小企業は改善の余地が大きいという。さらに中小企業の経営助言の専門家としての税理士の役割についても聞いた。

「攻め」の経営に転じるためにも会計の数字を知る

――2014年に「伊藤レポート」を、17年には「伊藤レポート2.0」を公表されました。この間、日本企業におけるガバナンス変革、「稼ぐ力」を重視するROE(自己資本利益率)経営などが進展してきたように思います。足元の新型コロナウイルスの感染拡大の影響はどうでしょうか。

伊藤 「伊藤レポート」では、ROE8%超を企業の目標にすべきだとし、企業経営者などの共感も得たと自負しています。実際にROEを意識したガバナンス変革に取り組んでいる企業も少なくありません。しかし、欧米の企業と比べると、日本企業の収益性はまだ高いとは言えません。それでいて昨今のコロナ禍により、自己資本や内部留保を厚くするようなところが増えています。これではせっかく進めてきたガバナンス変革も逆戻りすることになりかねません。

経営環境は確かに厳しいでしょうが、こういうときだからこそ、守りの経営ではなく、「コロナ後」を見越した、中長期的に企業価値を高めるような攻めの経営に取り組むべきです。

――一方で、中小企業においては「稼ぐ力」が弱いだけでなく、自己資本や内部留保も薄いようです。赤字体質のところも少なくありません。中には「会計などの数字はよくわからない」と語る経営者もいます。

一橋大学CFO教育研究センター長
伊藤 邦雄
一橋大学卒。一橋大学大学院商学研究科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。現在、一橋大学CFO教育研究センター長、中央大学大学院戦略経営研究科特任教授。三菱商事、東レ、住友化学など数多くの社外取締役を兼任。座長を務めた経済産業省プロジェクトでの最終報告書「伊藤レポート」は、国内だけでなく海外からも高い評価を受けている。

伊藤 中小企業だから収益性が低い、と考えるのは間違いです。実際に、大手企業ではできないような独自の製品やサービスを提供し、大手企業以上の高い収益性を確保している中小企業も珍しくありません。経営の意思決定が迅速にできる中小企業ならではの「稼ぐ力」の高め方があるのです。

ただし、その前提として、自社の経営が今、どのような状態なのかを把握する必要があります。会計の数字がなければその判断もできません。さらに、1年に1回、決算の時期になって、今期は黒字になりそうだ、赤字になりそうだというのでは遅いのです。中小企業の経営者で、数字が苦手という人でも、ぜひそこは頑張って、日頃から数字を眺める習慣を身に付けてほしいですね。

ガバナンスの強化により中小企業も強くなれる

――中小企業は未上場で、株主も経営者自身ということがほとんどですが、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の概念は、中小企業にも通じるものがあるのでしょうか。

伊藤 コーポレートガバナンス・コードは大手の上場企業だけのものではありません。その考え方は中小企業でも活用できます。例えば会計情報の開示です。正しい数字を帳簿に付けることはもちろんですが、これを顧問税理士や金融機関に定期的に開示することにより、自社の経営状況を理解してもらうことができます。それにより、今回のコロナ禍のように経営環境が変化したときに、タイミングを逸することなく助言をもらったり、融資を受けたりすることもできるでしょう。

さらに中小企業のガバナンスで留意すべきは、もはや自社1社だけで事業は行えないという点です。中小企業であっても大手のサプライチェーンに組み込まれていることが多いでしょう。大手企業は、自社がCO2削減などに取り組む一貫として、サプライヤーに対しても同様の取り組みを求めるようになってきています。

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