NTTの中長期的な成長戦略を読み解く 競争力強化に向け拍車がかかる成長戦略
積極的な株主還元
5月15日、NTTは2020年度年間配当を前期比+5円の100円で予定していることを発表した。これで同社の増配は10期連続となる予定。配当については「継続的な増配の実施」を基本的な考え方に据えており、03年度(12.5円)比で見れば約8倍まで拡大することになる。20年9月末時点で配当利回りは約4.7%。また、20年度の配当性向も前期比で1.9ポイント上がって43%予想と、3期連続で40%を超える見込みだ。
「継続的な増配の実施」と併せて、「自己株式の取得も機動的に実施」していく考え。実際、1999年度から19年度までに4兆円を超える自己株式取得を実施している。後述するNTTドコモのTOB発表後の11月6日にも21年3月31日までを取得期限とする2500億円(上限)の自己株式取得の実施を明らかにしており、株主還元に対する変わらぬスタンスが見て取れる。
株主還元策の一環として注目されている株主優待についても、株式の保有期間に応じて「dポイント」を進呈するメニューをスタートしている。3月31日の基準日時点で100株以上の株式を保有し、保有期間が2年以上3年未満の株主には1500ポイント、5年以上6年未満の株主には3000ポイントが進呈される。
こうした株主還元の拡充を支えているものは何なのだろうか。やはり設立当初から培ってきた顧客基盤・通信ネットワーク・ICT技術のノウハウを活用し展開している通信事業の着実な利益成長が寄与しているだろう。NTTの連結営業収益は6期にわたって11兆円台をキープしている。連結営業利益も、ここ4期は1.5兆円を超えて推移(国内第2位)。NTTが発表している20年度の業績予想は、新型コロナウイルスの影響を受け、営業収益は11兆5000億円と、対前年度比3994億円の減収予想だが、設備投資削減やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進による業務効率化などの経営努力により、営業利益は1兆5900億円、ならびに当期利益は8600億円といずれも増益となる見込みだ。
中期的な成長に向けたNTTドコモのTOB
ソーシャルディスタンスの確保を前提としたリモートワールド(分散型社会)など、ダイナミックに変化する経営環境において、NTTは中期的に成長していくために4つの方向性<(1)リモートワールドを考慮した新サービスの展開・提供、(2)リソースの集中化とDXの推進、(3)世界規模での研究開発の推進、(4)スマートライフ事業など新規事業の強化 >をめざすとしている。これらの取り組みを推進するうえで今まで以上にグループ横断での経営資源の戦略的活用や意思決定の迅速化が不可欠だと考え、NTTグループの収益の柱であるNTTドコモの完全子会社化に向けたTOBを20年9月に発表。国内企業へのTOBとしては過去最大規模となる約4.3兆円を投じる。本施策によりキャッシュフロー創出力を向上させ、一時的に高まる有利子負債の水準もリース事業分社化や債権流動化を進めることで着実に低減するとしている。このTOBの発表後も自己株式取得を実施しており、財務上はまったく問題ないとの自信がうかがえる。