日本郵便の現場を憤慨させた東京支社長の懺悔 かんぽ営業再開前の会議で支社長が語ったこと

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2020年10月5日、事実上の保険営業再開に合わせて、日本郵政は同日付の全国紙各紙に全面広告を掲載した(編集部撮影)

「納得がいかない部分を横に置いて、顧客のほうを見るのに心を1つにするなんてことができるはずがない」。日本郵便の中堅社員はそう口にした。

憤りを覚えたのは、東京支社の管轄の郵便局員ならば誰でもアクセスできる「音声」を聞いたからだった。日本郵便は、不適正な保険販売の大量発覚(かんぽ問題)をきっかけとした昨年来の自粛を解き、10月5日から事実上の営業再開を決めた。社員が聞いた音声は、それに先立ち9月24日に東京支社で開かれた「緊急保険担当副統括局長、単独マネジメント金融コンサルティング部長会議」を録音したものだ。

東洋経済はこの音声を独自入手した。会議の冒頭で荒若仁・執行役員東京支社長は「フロントライン(現場)の社員さんたち、いろんな思いがめぐっているんじゃないかと思います。今まで会社の方針に従って(保険の営業を)やってきたはずだったものが全否定された」と述べ、不適正営業の最大の要因は新規獲得を最優先する「会社の方針」にあったと認めている。

「現場の苦労に早々に気づくべきだった」

さらに荒若支社長は、「現場ではいろんな苦労あって、いろんなゆがみがあってということに、早々に気づくべきだった」とも話している。猛省するものの、自身や経営幹部の責任には言及しない。そして、冒頭の社員だけでなく現場の社員たちが憤ったのは以下の発言だった。

「どうか、そういったもろもろの(現場の)ゆがみというか、やるせなさというか、納得いかない部分、それをいったん横に置いてもらって、まずは私もそうですが、お客さんのほうを見ましょうということに、心を1つにしていただければと思っております」

日本郵便はかんぽ問題で1008人の現場社員を処分している。その中には懲戒解雇になった者もいるが、管理職で解雇された者はいない。現場社員と管理職との処分が不公平だという思いを持つ社員は多い。

過度な新規契約獲得の営業目標を掲げたことで不適正な営業が蔓延した日本郵便。これまであった不満はのみ込んでお客さんだけを見て再び頑張ろう――。そう現場に訴えるのは再び無理なことを強いるのと同じではないだろうか。

本記事の全文版はこちら。『東洋経済プラス』では、東京支社長の全発言を掲載しています。
山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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