木工芸の町・小田原市の「木に包まれた小学校」 市が森林保全と地域文化の啓発をリード

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「木」がもたらす情緒的メリット

小田原市立豊川小学校 校長
大木敏正氏

20年夏に改修したばかりの同市立豊川小学校校長の大木敏正氏は「本校の教育方針では学力の土台となる健康で安定した心を育むことを大切にしています。木の温かさが心の育ちに好影響を与えるのでは」と期待し、木質化を実施。実際、文部科学省でも「内装が木質化された校舎では、非木質校に比べ、子どもたちは教室を広々と感じ、校舎内での心地よさや自分の居場所などをより感じて生活している」といった木の情緒的なメリットを裏付ける研究結果などを紹介している。

同校で特徴的なのは、素材を生かした意匠。例えば昇降口の壁面は、ヒノキをカットした約2万個のウッドタイルを職人が一個一個張り込んで作られたが、木目や色みの違いが豊かな表情を生んでいる。削りでドット模様を施したベンチ座面もかわいらしく、座り心地がよい。

昇降口(豊川小学校)
左:表情が一個一個異なる昇降口のウッドタイル(豊川小学校)
右:削りで模様が施された昇降口のベンチ(豊川小学校)

「コンクリートの壁面が木で覆われ、一気に全体のトーンが明るくなってリラックスした雰囲気になりました」(大木氏)。自由度高く設計できる木の利点が発揮されたのが、教員のアイデアによる展示棚。2段で使えるスタッキング式にして各学級前に設置し、限られたスペースを有効活用できるようになった。

写真手前がスタッキング式の展示棚(豊川小学校)

米山氏も大木氏も「学校の木質化では、教員や地域、保護者の思いを大切にしながら一緒に進めることが重要」だと話す。実際、両校の木質化に当たっては、地元の木材関連人材の連携や尽力が大きかった。

「小田原市が地域産木材の利用拡大に取り組み始めて約10年。市で顔の見えるつながりを構築できたことは大きな財産」と話すのは、同市経済部農政課 林業振興担当課長の新倉和宏氏。

同氏は小田原の森林の現状について、「本市の森林面積は、全国の林業地と比較すると大きくはないですが、森林・林業・木材産業に関わる人材が豊富。彼らの尽力のおかげで小田原の森林整備や木材利用の取り組みが進み、『伐って、使って、植えて、育てる』というサイクルが再び作られつつあります」と話す。

森林が有する水源涵養や生物多様性の保全と土砂災害や地球温暖化の防止など多面的な機能の維持、気候変動対応や環境保全を目指すSDGs達成の観点からも、「伐って、使って、植えて、育てる」というサイクルの構築が必要。こういった環境的な側面だけでなく、小学校の木質化事例で見てきたような「木のぬくもり」が人に与える安らぎや地域活性化の観点からも、身近な生活にもっと「木」を取り入れようという動きが起こりそうだ。