木工芸の町・小田原市の「木に包まれた小学校」 市が森林保全と地域文化の啓発をリード
「木に包まれた学校」を通じて地域文化への理解を深める
「きれいになってる!」「木のいい匂い!」。2019年の2学期初日、子どもたちは登校した途端、口々に感嘆の声を上げた。ここは、相模湾に近い小田原市立酒匂(さかわ)小学校。柔らかな光が差し込む昇降口の壁面や天井、下駄箱が、木材をふんだんに使ってリノベーションされていたのだ。その多くが、地元・小田原産のスギやヒノキだという。
ここは、19年に行われた校舎の木質化改修によって生まれた空間だ。市域の約4割が森林である小田原市では、11年から地域産木材の利用拡大に本格着手。間伐材を使った製品開発や幼児期からの「木育」を展開するほか、市役所の一部やキャンプ場のバンガローなど、公共建築物に地域産木材を積極的に活用するなどして、森林・林業・木材産業の普及啓発を図っている。18年からは、「学校木の空間づくりモデル事業」(木質化)を開始。同事業に応募した当時の酒匂小学校教頭、米山由美子氏(現・同市立橘中学校教頭)はこう語る。
「モデル校1校目の東富水小に見学に行った際、木の雰囲気がとても素敵でした。酒匂小は歴史のある学校で趣がありますが、校舎が古いため改修が必要でした。せっかくなら子どもたちが木のぬくもりに触れられる環境にしたかった」
改修が決まると、学校関係者だけでなく市の林業関係者や伝統工芸に携わる若手職人らが協議を重ね、木材の利用法や空間の検証を行った。18年12月に始まったプロジェクトは、19年9月に竣工。地域一体となって短期間で駆け抜けた。20年春から酒匂小学校教頭を務める安田恵美子氏は「保護者など訪問される方は皆さん、木の香りと明るい雰囲気に驚かれます」と話す。従来の壁と扉を撤去して造った「くすのきホール」は、広々としてフレキシブルな空間利用が可能。改修直後は、「掃除当番が奪い合いになるほど子どもたちに人気だった」と米山氏は笑う。
「日常的に木に触れられるように」との思いで作られた木の荷物掛けも好評だ。フックは教員らの声から可動式にし、荷物が重ならないよう調整できるようにした。細かな使い勝手を追求できるのも、加工しやすい木材ならでは。木質化のこだわりとして、「香りや手触りを生かすため、使用木材はすべてニスを塗りませんでした。味わいが増して長く使えるのも木のよさ」と米山氏は語る。
また、地元の木工職人による室名サインは伝統工芸の寄木細工などが施されており精緻な美しさが目を引く。「木質化で、子どもたちが日常的に地域文化に触れるよい機会になりました」(米山氏)。