「中小企業」資金繰りで見落としがちな制度 事業承継に必要な「見えない借金」への対策
新型コロナの感染拡大が中小企業に与えた影響
多くの中小企業が廃業の危機にさらされている。従来の後継者不足や資金面での不安による事業承継の難しさに加え、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大による経済的なダメージが、事業継続をいっそう難しくしているのだ。税理士法人レディング代表税理士の木下勇人氏は、中小企業の現状を次のように語る。
「日頃、経営者の方々からさまざまなご相談を受けているのですが、新型コロナの感染拡大の影響で、3月以降はほぼ『当面の資金繰りをどうすればいいのか』という内容でした。最近になって、少しずつではありますが、『これから先の事業をどうすべきか』に変化してきました。こうした変化は、過去の大きな災害や経済危機のときと同様です」
中小企業の資金繰りとしては、補助金の活用や金融機関からの借り入れが一般的だが、意外と見落としがちなのが、生命保険の契約者貸付制度だ。加入している保険の解約返戻金の一部を保険会社から借りられる制度のことで、自身が積み立ててきたお金を元に借り入れを行うため、利用時の審査がなく、スピーディーに入金される。また、保険を解約する必要がなく、借り入れをしながら、いざというときには保障を受けられるというメリットもある。
中小企業向けに事業保険を提案しているエヌエヌ生命保険は、新型コロナで影響を受けた企業の資金繰り対策の1つとして、業界に先駆けて新規契約者貸し付けの利率を引き下げ、利息を免除することとした。同社で代理店営業推進部長を務める永井卓也氏は、その経緯について次のように説明する。
「多くの中小企業が、売り上げを落とす一方で、家賃や光熱費、従業員の給与支払いなど、当座の資金の捻出に苦労しています。こうした中で、われわれ生命保険会社にできることは何なのかを真剣に議論しました。その結果、法人向け保険の解約返戻金の9割まで貸し付ける制度について、金利をゼロにしてお役立ていただこうという結論に至りました」
ある設備工事会社は、中国からの資材の輸入が停止し、急に売り上げが立たなくなった。そこで、同社の契約者貸付制度を活用し、従業員の給与や光熱費など、固定費の支払いに充てたという。
こうした事例のほか、5月までの3カ月間にあった同社への契約者貸付制度の申し込みは約2100件。平均貸付単価は、1法人当たり約1800万円で、計380億円近くの貸し付けを行った。それも、申込書類を受理してから入金までおよそ3営業日と、緊急的な資金繰り支援として、大いに貢献したといえるのではないだろうか。