事業承継に成功する経営者は何が違うのか コロナ禍でも「強さ」を見せる企業の特徴

※中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
――新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大で、日本の中小企業が大打撃を受けました。
佐竹 中小企業は今、大きく4つの問題に頭を悩ませています。「従業員の賃金の支払い」「金融機関からの借り入れの返済」「家賃の支払い」「生活費をどう捻出するか」です。政府はさまざまな経済支援策を打ち出してはいますが、まだまだ追いついていないというのが現状です。金銭的な支援も含め、さまざまな形の支援を継続的に行っていかなければ、相当な数の中小企業が倒れるのではないかと危惧しています。
新型コロナの感染拡大で中小企業は先行き不透明に
――事業承継にも影響が出てきそうですね。

佐竹 隆幸
1960年生まれ。関西学院大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科博士課程後期課程単位取得退学。博士(経営学)。日本中小企業学会会長や兵庫県参与などを務める。兵庫県立大学教授を経て、2016年4月より関西学院大学教授。2019年4月より現職。兵庫県立大学名誉教授。著書に『現代中小企業のソーシャル・イノベーション』(同友館)、『現代中小企業の海外事業展開』(ミネルヴァ書房)ほか
佐竹 諸外国では企業価値が株式価値で判断されるため、経営者の多くは株価を重視し、新しいビジネスモデルをつくり、それを売却してまた新しいビジネスモデルをつくることを念頭に置いています。つまり、事業承継をあまり重視していないのです。
日本はというと、制度上は株式価値が重視されますが、実際はお客様からどう評価されるかという、顧客価値が重視されています。子どもや孫の代まで事業を伝えていかなければならないという価値観が根強く、事業の継続性が最優先されるからです。
しかし、もともと日本では、中小企業の後継者不足が問題化していたことに加え、今回の新型コロナで、事業を継続したくてもお客様が来ない、取引先がつぶれるかもしれないという状況に直面し、事業承継はますます難しくなっています。
以前、阪神・淡路大震災やリーマンショックを経験した中小企業の経営者に聞き取りをしたところ、元の状態に戻るまでに約10年かかったという企業がほとんどでした。
しかし、災害や金融危機と違い、新型コロナの影響はいつまで続くかわかりません。ワクチンができるまでか、それともみんなが免疫を持つようになるまでか……。底打ちすればそこが出発点となり、打つべき施策も見えてきますが、まだ出発点が見えておらず、見えたとしてもそこから元の状態に戻るまでに10年かかります。後継者候補が事業承継のモチベーションを長期間維持できるのかが懸念されます。
――事業継続が見通しづらくなっているということですね。
佐竹 BCP(事業継続計画)には大きく3つの段階があります。「自然災害やテロ攻撃などの緊急事態に遭遇したその瞬間、どう対応するのか」、続いて「差し当たりどう事業を継続していくのか」、そして「どのように元の状態へ戻していくのか」です。新型コロナの影響を受けた企業の多くは、まだ1つ目の段階で、今なお次の段階に進めていません。
ただし、以前からBCPを作成し、実行していたような中小企業は、強さを見せています。とりわけ、日頃から地域内での連携、例えば地域の経済団体や金融機関、士業などとの関係性を密にしてきたところは、ダメージは受けていてもつぶれるところまでいっていません。