タイ現地法人におけるマネジメント強化の実践、
日本企業さらなる飛躍の条件とは
[基調講演]
タイの政治経済情勢
現状と見通し
タイでは昨年秋から反政府デモが行われ、政治・経済に影響を与えている。今年2月には下院の総選挙が行われたが、反政府側が選挙を妨害。南部を中心に69選挙区で投票中止の事態になった。井内摂男氏はタイ政治の主要な出来事を解説し、インラック政権与党であるタイ貢献党の政策は、最低賃金の引き上げ、コメを担保にした貸付制度の導入など「大衆受けするものが多い」と指摘。今後の見通しについては極めて不透明と前置きしながらも、再選挙実施などの可能性を挙げた。
一方、経済については、バンコク日本商工会議所が行ったアンケート調査を引用。反政府デモについて「日本からの出張者が減ったことなどを除けば影響は限定的」という回答が多かったことを示した。またGDP、株価などの推移を説明し、「GDPの7割を輸出が占めており、過去も政治より輸出が経済に影響。マクロの基礎条件は良好で市場の信頼を得ている」と語った。さらに、ビジネスは平常に戻っていること、日本企業が今後の有望市場としてタイを上位にランク付けしていることなどに触れた。最後に「タイには人件費上昇、政情、洪水など自然災害のリスクがある。JETROは最新情報をWebに随時掲載しているので、参考にしてほしい」と呼びかけた。
[特別講演Ⅱ]
現地ニーズに応える
マーケットインの事業戦略
農業機械メーカーのクボタは、1978年にタイに進出した。一人当たりのGDPが3000ドルを超えると農業機械の普及に弾みがつくとされるが、タイではすでに5000ドルを超えた。そのタイで製品を生産し、周辺国へも輸出する。川上寛氏はまず自社の概要を紹介し、「タイでは日本に次ぐ一貫生産体制を構築している」と語った。
そうした実績に基づいて、アジアでビジネスを伸ばすためには「製品力、サービス力、ブランド力、提案力、現地化が重要だ」と指摘。その事例を紹介した。タイ国内だけでも44カ所にサービスセンターを設置。アフターサービス体制をつくり上げ、コールセンターでトラブルにも迅速に対応している。CMなども活用してクボタブランドの浸透を図り、現地社会に受け入れられ、必要とされる企業になるためにCSR活動にも取り組んでいる。
また、現地の購買力に応じた一貫生産体制、現地人材の活用と教育、ロイヤルティを醸成し、価値観を共有するための活動などを例示し、同社工場が大洪水で被災したとき、現地スタッフが再開に向けて率先して取り組んだエピソードも披露。「タイの工場を『第2のマザー工場』にしたい。そのために今後も現地の人材を中心に自立して活動していく」と話を結んだ。