東洋経済オンラインとは

スカパーJSAT、増加続く宇宙ごみの除去に着手 世界初※1レーザーで除去する衛星を設計・開発

AD
  • スカパーJSAT 制作:東洋経済ブランドスタジオ
宇宙には、ごみが大量に漂っている。使用済みの人工衛星、打ち上げロケットの部品、衝突し発生した破片などの人工物が取り残されているのだ。これらはスペースデブリ(宇宙ごみ)と呼ばれ、その数が年々増加しており深刻な問題になりつつある。この状況を打開しようと、衛星放送「スカパー」で知られるスカパーJSATが立ち上がった。スペースデブリを除去するためにさまざまな機関が開発を行っている中、スカパーJSATは衛星に搭載したレーザーを用いるという、世界初の方法で実施するための研究開発に着手した。
※1 自社調べ、特許出願中

衛星の利用が広がり宇宙ごみの数も年々増加

「宇宙ごみは地球の周りを秒速7~8kmで移動していて、わずか数mmのごみですら、この速度で移動する際に発生するエネルギーは、ボウリングのボールが時速100kmくらいで移動するのに相当します」

そう話すのは、スカパーJSATデブリ除去プロジェクトリーダーである福島忠徳氏。

宇宙ごみは、衛星を利用したサービスの広がりに伴って、年々増え続けている。BS放送、衛星放送、天気予報、GPSなどの位置情報サービスといったように、われわれは衛星の恩恵を日常生活において受けているが、その日常が宇宙ごみによってリスクにさらされている。

スカパーJSATは、1989年に日本民間企業初の通信衛星を打ち上げ、2020年5月末現在、19機の衛星(静止軌道上に18機、低軌道上に1機)を保有し世界第5位の売上高を誇るアジア最大の衛星通信事業者だ。いわば、宇宙利用企業のパイオニアといえるだろう。衛星通信は災害に強いため災害対応・危機管理のための配信や、衛星電話サービス、海洋ブロードバンドサービス、航空機内のWi−Fiなど多彩なサービスを展開している。そんな同社が、2018年にスカパーJSATデブリ除去プロジェクトを始動させた※2

スカパーJSAT
デブリ除去プロジェクト
プロジェクトリーダー
福島 忠徳

「私はもともと社内で衛星の運用を14年間担当していました。われわれの運用している衛星は赤道上空3万6000kmにある静止軌道と呼ばれる軌道にあり、比較的宇宙ごみの影響は少ないとされている場所ですが、そこでさえ宇宙ごみとぶつからないよう衛星を動かすことがあります。より混雑した低軌道では衛星と宇宙ごみ(他の物体)との接近回数が桁違いに多いこともあり、ごみ自体が年々増えることに対し、衛星運用者が危機感を抱いていることを実感していました。宇宙ごみが増えると宇宙利用そのものが難しくなる可能性もあり、私たちの事業にとっての脅威となりかねません」(福島氏)

1957年に旧ソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げて以来、これまでに世界各国で打ち上げられた衛星など(ISS輸送機等を含む)は2019年5月時点で8500機を超えている。高度が下がって落下したものや地上に回収されたものを除いても、軌道上に約5000機以上存在しており※3、これらはすべて宇宙ごみとなる。

「調査機関によって数字は異なるものの、宇宙ごみは10cmより大きい物体が2万~3万個、1cmから10cmのものが50万~90万個、1mmから1cmのものは1億~2億個あるといわれています」(福島氏)

冒頭で説明したように、数mmという小さなごみでも、そのごみが持つエネルギーは膨大だ。運用中の衛星にぶつかれば、損傷により運用停止となるおそれもある。

「実際に大きな衛星同士がぶつかった事例もあります。2009年には米国の運用中の衛星とロシアの運用を終えた衛星が衝突し、その結果、さらに観測できるものだけで1000個以上ものごみが生まれました。1mm以上のごみは数百万個発生したといわれています。そして、やっかいなことに、宇宙ごみは700~800kmよりも高くなると、50~100年やそれ以上の長い期間、宇宙空間を高速で移動し続けます。そして、静止軌道では永久にごみはなくならないのです」(福島氏)

※2 本プロジェクト参画パートナーは、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、名古屋大学、九州大学

※3 1 United Nations Office for Outer Space Affairs (UNOOSA), Online Index of Objects Launched into Outer Space.

世界初!宇宙ごみをレーザーで除去する衛星を設計・開発

宇宙ごみの問題について、国内外で議論も活発になっている。「打ち上げを制限してはどうかという声もあります。ただし、仮に今打ち上げをやめたとしても、衝突などにより宇宙ごみは増え続けるという調査もあります」。

となれば、「除去」に取り組まない限りは、この問題は解決しない。そのため、各国で宇宙ごみ除去のための技術開発も始まっているが、いずれもまだ緒に就いたばかりだ。

「さまざまな方法が検討されていますが、安全面、コスト面などの課題も少なくありません」

例えば、宇宙ごみを物理的に捕獲する衛星を打ち上げる方法がある。磁石やアーム、網などでごみをつかまえ、軌道を変えて高度を下げる方法だが、接近・捕獲のために速度や位置を制御するには高度な技術が必要だ。とくにごみが回転している場合は難易度も高くなる。回転しているごみにうまく対応できないとごみを捕獲する衛星自身がごみと衝突してしまうからだ。

「それに対して私たちは、安全性が高くコスト効率に優れた非接触方式を提案しています。レーザーを用いて制御不能な衛星などの軌道を変更し、地球大気圏に近づけて除去する方式なのですが、これが実現すれば世界が変わると思うのです」

レーザーを当てるだけでなぜ物体が動くのだろうか。「2019年に理化学研究所と共同で実験を行い、レーザーアブレーションによって発生する力により、不要な衛星を十分に動かせることが確認できました。レーザーアブレーションとは、物体の表面にレーザーを照射することで、物体の表面の物質が気化・プラズマ化し、放出される現象。その放出による反力が推進力となって、衛星を動かすことができるのです」。

現在、さまざまな宇宙ごみの除去方法が国内外の機関や企業で研究されているが、レーザー方式はその中でも優位性があると福島氏は自信を見せる。

「レーザー方式は、ターゲットとなる宇宙ごみと接触せずにそれも100mほど離れた位置からでも回転制御や軌道変更が可能なため、接触リスクが低いのが特長です。また、宇宙ごみ自体が燃料となるので、宇宙ごみを動かすために燃料を持っていく必要がないため、燃料コストを大幅に削減できます。実際の問題解決のためにはコスト低減はとても重要と考えています。コスト削減によって受益者負担の適正化や公平性が保たれることで、みんなが安心して宇宙を利用できるようになると思います」

使命感を持って取り組む宇宙×SDGs

このように壮大なプロジェクトだが、決して夢物語ではない。福島氏は「22年度末までにレーザーミッションの機器開発および衛星設計を完了し、その後2~3年で実証機による軌道上実証を行い、26年度のサービス開始を目指しています」と語る。

可能性ある宇宙ビジネスが日本発で創出されようとしている点でも大いに楽しみだが、福島氏には自身の大きな「思い」もある。

「実はこのプロジェクトは、社内のスタートアップ制度に有志と共に提案し、採択されたものです。宇宙ごみの問題は、CO2や海洋プラスチックと同様の環境問題であり、宇宙のSDGsと位置づけられます。当社はこれまで宇宙を30年以上にわたり利用し、2020年5月末現在、19機の衛星を保有しています。宇宙を利用する企業として、私たちにこそやる意義があると考えました。社会課題解決はCSRなどのボランティアを重視すると、広がらず問題解決が遠くなっていきます。ビジネスとして成立させてこそ、宇宙のごみ問題は本当に解決できると思っています」

まさに事業を通じて、宇宙規模の課題の解決に挑もうとしているわけだ。今彼らが踏み出した小さな一歩が、人類にとっての大きな一歩になる日はそう遠くないだろう。