競争優位性を高める「真のDX」を実現するには デジタル人材の育成が必要
野村総合研究所では、デジタル人材のロールモデルを企業内で育成するプログラムを提供している。
「基本的には『やってみたい人』を募るスタイル。最大人数もとくに定めず、関心を持つ人材だけを集めています」
プログラムでは、デジタル技術について単に知るのではなく、状況が一様でない各社のビジネスとデジタル技術をいかに掛け合わせられるかについて考えていく。そのため、日頃からビジネス課題を意識しており、デジタル技術に好奇心を持っている人材を対象としているのである。
「より重視しているのは『体験』です。デジタル技術の存在は知っていても、実際に触れたことのない人はたくさんいます。体験することで、ビジネスにおける具体的な活用方法をイメージしたり、議論してもらうことを目的としたプログラムなのです」
育成プログラムで体験できるデジタル技術は、AIやVRなど約20種。5人程度のグループで体験していくと「うちの技術力と組み合わせるとこんなことができそう」「AIも使うことでこんなことができないか」といった議論が沸き起こってくるという。
自然に生まれるアジャイルな組織が会社変革の“種”となる
こうした自由闊達な議論が沸くと、部署や属性を問わずに人材を募った意味が出てくると中澤氏は説明する。
「同じ会社の中でも、IT部門と事業部門の間には壁があるものです。しかし、部署を問わずに関心のある人だけを集めることで、おのずと部署間横断でのアジャイルな組織が生まれ、社内組織の壁を取り払うきっかけにもなると考えています」
実際、このプログラムを契機に複数の部署が協力し合ってPoC(概念実証)に取り組んだ事例もある。デジタル技術の活用を促進するだけでなく、時代の変化に即応できる企業風土を形成する下地となることも期待できよう。
とはいえ、人材育成からのアプローチは、一朝一夕に成果が表れるとは限らない。しかし、予測不可能なこれからの時代で企業が生き残るためには、避けて通れないプロセスだ。
「プラットフォーマーも事業の黒字化に時間を要しています。つねに新たなビジネスの“種まき”をしなければ、たとえ巨大企業でも衰退してしまいます。5年10年先を見据えて競争優位性を高めるためには、一見遠回りなデジタル人材育成への投資が不可欠です」
DX推進のリーダーを担える人材が各社で重宝される時代は、すでにやって来ている。そのとき、競合の後塵を拝することなく時代をリードする存在であり続けるためにも、早急な対応が必要なのではないだろうか。