競争優位性を高める「真のDX」を実現するには デジタル人材の育成が必要
業務効率化は進んだがDXが実現できない本質的な理由とは
企業にとって、デジタル化への取り組みはもはや当たり前になってきた。一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「デジタル化の取り組みに関する調査」によれば、2018年度にデジタル戦略策定を実行中あるいは準備中と回答した企業は54.0%。16年度は12.5%だったため、3年間で41.5ポイントも増えた計算だ。この調査に共同で取り組んでいる野村総合研究所の上席コンサルタント、中澤貴史氏は次のように分析する。
「テクノロジーの進化によって、AIやデータ分析のツールが従来よりも安価で手軽に使えるようになったことが大きいでしょう。そうしたデジタル技術を活用して競争優位性を高めるプラットフォーマーが増えていることも、背景にあります」
一方、DXという観点で見ると、甚だ物足りない状況だという。
「そもそもDXとは、デジタル技術をうまく活用できるよう、業務や各種マネジメント手法・制度などを含めて会社全体を変革していくことですが、そこまでたどり着いている企業はほとんどありません。RPA導入で単純作業を大幅に削減したけれど、コストと生産性は何も変わらないなど、手段が目的と化してしまったような話も多く耳にします」
なぜそうなるのか。中澤氏は体制に問題があると指摘する。
「欧米企業と比較すると、日本企業はこれまでデジタル化をアウトソーシングに頼り、社内で十分に人材を育成してきませんでした。アメリカのデジタル人材は各企業内に7割、ベンダー側に3割いるとされていますが、日本における比率は逆です。そのため、デジタル化は自分たちには関係ない、もしくはIT部門やデジタル部門の仕事であると考える経営者も少なくありません」
デジタル化を自分ごととして捉えられなければ、デジタル技術をビジネスと結び付け、DXを進めることができないのも当然だ。
デジタル技術を実際に体験することで得られる「気づき」
今後は、デジタル技術を活用して新しい事業を生み出すことが経営課題の中心となる。デジタル化をアウトソーシングに頼り切りでは、通用しない時代がやって来るという。
「AIやIoTといったテクノロジーをビジネスで日常的に活用する世界は、すぐそこまでやって来ています。もちろん、外部人材やパートナー企業を活用するのは重要ですが、基本的なデジタルリテラシーすら持たずに、1から10までITベンダーに聞いているようでは、到底生き残ることはできません」
経営層はもちろん、現場の従業員もデジタル技術の活用が「当然」となる環境を早急に整える必要があると中澤氏は説く。
「いきなり全員にそうした意識を浸透させるのは困難でしょう。そこで、まずは現場の旗振り役として『DX推進リーダー』を育成することが有効だと考えています」