企業が「自然エネルギー」を無視すべきでないワケ(前編) 気候変動リスク回避、将来の先行投資として

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―なぜ今、自然エネルギーの利用が必要なのでしょうか。

石田 2019年9月ごろからオーストラリアで起きた、森林火災の大規模化は、ほぼ間違いなく気候変動が関係しているといわれています。日本では昨年、台風が大きな被害をもたらし、太平洋の島国は海面上昇で住む場所を失いつつあります。これらはもはや“気候危機”と言っていいと思いますが、それらを引き起こす要因になっているといわれているのが、火力発電所から排出されるCO2です。気候危機から暮らしを守るには、CO2の排出を少しでも早く減らさないといけません。方向性は2つあって、1つは省エネです。そしてもう1つが、火力を自然エネルギーに置き換えていくことなのです。

CO2を排出しないエネルギーとして、原子力も考えられます。しかし、東日本大震災での事故を通じて、日本人の大半は原子力の安全性に100%はないことを痛感しました。また、使用済み核燃料の処理問題もいまだに道筋がついていません。そう考えると、少なくとも日本で火力を原子力に置き換えるという話にはならないでしょう。

そもそも日本では、パリ協定で“脱炭素”が世界の最重要テーマの1つになる前から、“脱原発”の文脈で自然エネルギーの必要性が注目されてきました。日本は両方の意味合いで、自然エネルギーの利用を積極的に進めていかなくてはいけないと考えています。

―世界から見て、日本の現状はいかがでしょうか。

石田 2018年の時点で、全世界の発電量のうち25.1%が自然エネルギーです。力を入れている国は当然もっと比率が高く、ドイツは38%、中国も26%に達しています。それに対して日本は18%と低いですね(※1)。さらに残念なことは、政府の目標です。政府が掲げた目標は、2030年に22~24%にすること。これは今から10年後に目標を達成したとしても、2年前の世界平均よりまだ低い水準ということになります。これでは明らかに不十分でしょう。

―日本で自然エネルギーの利用が進んでいないのは、国土の広さや気候が原因なのでしょうか。

石田 あまり関係がないでしょう。日本と大きさや気候条件が大きく変わらない英国でも自然エネルギーの利用は33%です。利用が進んでいる国も、とくに決まった傾向はありません。例えばカナダは70%で、そのうち最も多いのが水力で64%。デンマークは59%で、風力が39%。ドイツは38%で、風力が19%、太陽光が8%(※2)。というように、それぞれが国土や気候に合わせた形で自然エネルギーを利用しており、とくに日本にハンデがあるわけではないと思います。

長崎県 五島列島・福江島の沖合に立つ「浮体式」の大型風車。翼の回転直径は80メートルだ
(撮影:自然エネルギー財団)

むしろ日本がリードできる分野もあります。それは、洋上風力です。日本は、海に囲まれており、その方式においてリードできる可能性がありそうです。

洋上風力は英国や中国が積極的に活用していますが、その多くは海底に基礎を打って風車を建てる「着床式」。日本は沿岸でも水深の深い所が多いので、風車の基礎を浮かせる「浮体式」の開発を進めています。すでに大手ゼネコンは、「浮体式」を建設するための船を数百億円かけて発注済み。ということは、その投資を回収できるくらいには日本近海に「浮体式」の洋上風力発電施設が建てられる可能性が高い。このノウハウが蓄積されれば、海外にもその技術やノウハウを輸出して貢献できるかもしれませんね。

―国土や気候が原因ではないとしたら、なぜ日本で自然エネルギーの利用が進まなかったのでしょうか。

石田 大きいのは政策です。発電所は1年、2年でできるものではないため、エネルギー政策には長期的な視点が必要です。ヨーロッパの先進国は1990年代から自然エネルギーの固定価格買い取り制度を取り入れ始めましたが、日本でこの制度が始まったのは2012年7月。日本は国策として原子力を進めてきたので、10年以上遅れました。

残念ながら、政府の動きは今も不十分です。そこで期待したいのが企業の動きです。ご存じのように米国はパリ協定から脱退しました。しかし、州政府や企業は、連邦政府と一線を画して自然エネルギーの利用を進めています。政府の政策を待たずに取り組めることは多いし、そうした動きが逆に連邦政府を動かす可能性がある。日本でも、企業が動くことで全体を変えていくことは可能です。企業の皆さんには、ぜひその最初の一歩を踏み出していただきたいですね。

※ 1・2 出典:自然エネルギー財団HP

2/27公開予定 企業が「自然エネルギー」を無視すべきでないワケ(後編)に続く
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