「米イラン戦争」開戦で語られる最悪のシナリオ 数百万人に上る犠牲者、ISの復活…

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専門家たちは、アメリカ軍の大規模部隊が侵攻する場合、イランの民主化勢力らがイスラム体制打倒に向けて一斉蜂起し、イランがアメリカの同盟国に転換するとの希望的観測を戒めている。

そのシナリオによると、イラン沿岸でアメリカ軍の艦船がイランの小型潜水艦かドローンによる攻撃を受け、浸水。アメリカ軍は、イランのミサイル防衛関連施設を空爆して開戦する。シリアとイラクの国境付近に駐留するアメリカ軍部隊は、ロケット弾や迫撃砲の雨嵐で睡眠を破られる。

スエズ運河やホルムズ海峡といった国際海運ルートへの自爆攻撃はありうるだろう。自衛隊が派遣されるイエメン沿岸の海域には、多数の機雷が敷設され、船舶の航行は自滅的な行為になる。サイバー攻撃も激化し、送電線網は機能不全に。イランの影響下にある勢力が中東や中央アメリカなどでソフトターゲットを狙ってアメリカを挑発する。

アメリカ軍は特殊部隊を中心にイランに侵攻し、重要施設の特定や破壊に従事。数週間、もしくは数カ月後、弾薬は底を突いて主要な標的も破壊し尽くす。それでも、イランの指導部は、政権の座にとどまり続けるかもしれない。戦争の結果、死者は数千人に及ぶだろう。

トランプは戦争を有利に展開できない

一方、4日付のザ・ヒルは、アメリカとイランの戦争は、アメリカの指導部が望むような通常型の戦争にはならず、ゲリラ戦術や匿名性を持った攻撃を中心とした「非対称戦争」になると予想する。アメリカは、世界中で予想もできない方法によってアメリカ人やその権益を攻撃できる選択肢を持った難敵と戦争状態にあるという。

今回の殺害によって、イランに政治的、軍事的な圧力を強めてイラン核合意について再交渉するためのテーブルに着かせる可能性はゼロになった。ヨーロッパやトルコなどの伝統的な同盟国に対するトランプ政権の敵意により、中東地域でアメリカが協力を得られる可能性はほとんどない。トランプ大統領の外交や安全保障問題での無能ぶりから判断して、戦争を有利に展開できないだろうと悲観的な結論を示している。

以上のような悲惨なシナリオの数々も語られている。だが、筆者は依然、アメリカとイランが大規模な戦争に発展することはないと考える。その理由は、装備面での圧倒的な軍事力の差であり、イランが真っ向勝負を挑めば、自爆的な戦いになる。

アメリカ側も、戦争となれば、アメリカ兵やアメリカ市民の多大な犠牲が避けられない。大統領選を11月に控えたトランプ大統領にとっては最悪の選択だ。双方は今のところ、戦争を回避しようという意思が鮮明だ。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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