SDGs Lab

投資家はもう気候変動無視企業を選ばない(後編) 気温0.5℃上昇が暮らしに与える影響とは

拡大
縮小

―SBTは、もともと2015年にパリ協定で決まった「2℃目標(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑えるという目標)」を目指すものでした。しかし、それだけでは不十分という声が高まり、2019年10月にSBTは1.5℃未満が目標になりました。

高瀬 わずか0.5℃の差ですが、私たちの生活への影響はかなり変わります。例えば5年に1度はひどい熱波にさらされる世界の人口は、2℃の場合、世界の37%ですが、1.5℃では約14%で、およそ5分の2になります。水への影響も無視できません。水の偏在性が高まって、水へのアクセスに苦しむ人たちの数は、1.5℃に抑えれば2℃の場合と比べて約半分になると予想されています。

ただ、前提としては、1.5℃に抑えても十分にひどい状況であるということを認識しておかなくてはいけません。今の時点でも、日本では洪水や土砂災害が頻発しています。私の実家は栃木ですが、激甚化した台風の影響で近所の川が氾濫して、今も元通りにはなっていません。ですからとにかく気温上昇の度合いを低く抑えるのに越したことはないのですが、現実的に目指すなら1.5℃なのだろうなと。

CDPとして、積極的な講演活動で広く啓蒙活動を推進するほか(左上)、国際会議にも多く出席している(右下)。RE100関係者と撮影(右上)。志を同じくする仲間だ

―長年研究されてきた再エネについては、日本はどのような課題がありますか。

高瀬 この問題は話すと止まらなくなっちゃいますよ?(笑)。大枠で言うと、課題はやはり供給側にあると思います。再エネを購入したいという市場からのニーズは高いのです。CDPでも再エネを調達するほど評価が上がりますから、企業もできれば再エネを使って排出削減したいのですね。

しかし現状は、再エネの量、質、価格とも、需要に応えるものになっていません。日本のエネルギー業界は、大きな発電所を造ってトップダウンで制御するやり方が大前提なので、分散型に発想を切り替えることができていないのです。ほかにもいろいろ課題はありますが、まずはここを解決する必要があると思っています。

―最後に、高瀬さんにとってSDGsとはどのようなものか、教えてください。

高瀬 エネルギーや気候変動を研究してきて実感しているのは、昔言われていたことが、今本当に起きているということ。台風が激甚化して土砂崩れが頻発。干ばつで農作物に被害が出て、一方で北極や南極の氷が溶けて島が水没していく。みんな私が研究を始めた当初から指摘されていたリスクでしたが、今顕在化して実際に被害に遭う人々がいるわけです。それを予測していた科学はすごいなと思うと同時に、わかっていたのに防げなかったもどかしさも感じています。

救いはSDGsですね。というのも、私のような地球の未来を危惧した科学者や、そのほか多くの人が提言してきたことが、わかりやすく箇条書きになって盛り込まれているからです。こういう問題って、それぞれの立場や1つの側面から意見を言い合うので、意見を吸い上げても、絶対的な正解も出づらいですし、具体的な方法論に落としづらいんですよ。それに対して、国連がいろんな立場の意見も取り入れて、提唱しわかりやすく明文化してくれたことで、明確化された。いわば全世界に対し、未来へ向かってどうアクションするべきかの共通言語ができたと思っています。

例えば温暖化対策のために、もう電気は使わないほうがいいと主張する人がいます。しかし、途上国には貧困から抜け出すために電気を使う権利だってあるはずです。そうした意見の多様性をもSDGsはカバーしていて、温暖化のことも、電気を使う権利のことも、両方書いてあります。だから無理に1つに収まらなくてもいい。共通言語ができたことで、みんなでワイワイガヤガヤと議論しながら調整することが、将来への具体的なアクションにつながっていくのだと思います。

What’s 環境配慮型オフィス?
「紙」&「オフィス」に向き合い続けたエプソンが提唱する新たなオフィスの形
毎日たくさんの紙が消費されているオフィス。
「紙」&「オフィス」に向き合い続けたエプソンが、新たなオフィスの形を提唱している。水をほとんど使わず新たな紙を再生する乾式オフィス製紙機「PaperLab」(右上)と、低消費電力を特長とし、環境性能に強みを持つ高速ラインインクジェット複合機/プリンター(左上)を組み合わせ、オフィス内での紙循環を促しているのだ。
新宿オフィスに設けられたショールームでは、「PaperLab」、高速ラインインクジェット複合機/プリンターによる印刷体験ができるほか、「PaperLab」で作られた紙を用いて作られた印刷物に触れることができる(右下)。早くも、一般企業、公共団体からの体験予約が入っているそうだ。
SDGsの目標のうち、7つの目標に合致するこちらの取り組み。会社にどのようにSDGsを取り入れようか悩んでいる向きも、一度訪問してはどうだろうか。

機器内の湿度を保つために少量の水を使用します。

詳細はここから。
お問い合わせ
エプソン販売
連載トップページ
SDGsで読み解く未来
「SDGs Lab」
関連ページ
Vol.1
企業活動にSDGsが不可欠な理由
(前編)
Vol.2
企業活動にSDGsが不可欠な理由
(後編)
Vol.3
国連で活躍の日本人が見た海外SDGs
(前編)
Vol.4
国連で活躍の日本人が見た海外SDGs
(後編)
Vol.5
電気自動車で地域課題を解決
(前編)
Vol.6
電気自動車で地域課題を解決
(後編)
Vol.7
投資家はもう気候変動無視企業を選ばない
(前編)
Vol.9
企業がサステナブルな存在であるために
(前編)
Vol.10
企業がサステナブルな存在であるために
(後編)
Vol.11
企業が「自然エネルギー」を無視すべきでないワケ
(前編)
Vol.12
企業が「自然エネルギー」を無視すべきでないワケ
(後編)
Vol.13
今、なぜミス日本がSDGsに貢献するのか
(前編)
Vol.14
今、なぜミス日本がSDGsに貢献するのか
(後編)
Vol.15
企業経営で知りたい新しいSDGsのあり方
(前編)
Vol.16
企業経営で知りたい新しいSDGsのあり方
(後編)
Vol.17
SDGs認知高い日本に「足りない」ものは?
(前編)
Vol.18
SDGs認知高い日本に「足りない」ものは?
(後編)
Vol.19
コロナを乗り越えた自治体の共通点とは?
(前編)
Vol.20
コロナを乗り越えた自治体の共通点とは?
(後編)
Vol.21
有事に強い、ローカルSDGsを実現
(前編)
Vol.22
有事に強い、ローカルSDGsを実現
(後編)
Vol.23
城南信用金庫がSDGsに力を入れる理由
(前編)
Vol.24
城南信用金庫がSDGsに力を入れる理由
(後編)
Vol.25
コロナが世界に問う、SDGsの重要性
(前編)
Vol.26
コロナが世界に問う、SDGsの重要性
(後編)