大規模調査で見えたDXの現在の到達点 そこから導かれる推進の成功要件とは?
NTTデータ経営研究所
かつてない大規模調査で見えた日本企業のDXに関する現状と成功要件
●日本企業のデジタル化の取り組みを調査
米国では、アマゾン・ドット・コムにより既存の小売・流通事業者が淘汰される「アマゾン・エフェクト」がますます拡大している。それに対して、ウォルマートなどの大手小売りはネットとリアルの融合などのDXを加速させている。
「翻って日本企業では、経済産業省が『2025年までにDXに乗り出さなければ日本企業は生き残れない』という、いわゆる『2025年の崖』問題に言及した『DXレポート』(2018年9月)を公表し衝撃を与えた一方で、実際はまだDXは始まったばかり」と、NTTデータ経営研究所の加藤賢哉氏は概観する。
加藤氏は、同社が実施した「日本企業のデジタル化への取り組みに関する調査研究」の結果を紹介。日本企業のDXの現在の実態を示すとともに、そこから得られたDXの成功要件を示した。
調査は2019年7~8月に、国内の売上高100億円以上の大企業・中堅企業1万4,509社を対象に郵送依頼により行われた。有効回答数は694社(4.8%)で、「回答企業・回答者のプロフィールを見ると、幅広い業界からまんべんなく回答が得られたことが分かる」と、かつてない規模で行われた調査であることを加藤氏は話し、調査が実質的に、日本のDXの実態調査最新版であることをアピールした。
●どのくらいの企業がDXに取り組んでいるのか
まず、DXの取り組み状況について「具体的に取り組んでいる」と回答した企業は全体の44.4%、「具体的に取り組んでいないが興味がある」と回答した企業は43.8%で、合わせて9割近くの企業が、DXへの意識の高さがうかがえることが分かった。
ただし、その内訳を規模別に見ると、売り上げ1,000億円以上の企業では78.7%がDXに取り組んでいる一方、売り上げ500億円未満の企業では34.5%となっている。また、業種・業界別で見ると、金融で69.2%、テレコム・メディアで65.9%の企業がDXに取り組んでいると回答した反面、小売りでは34.6%、商社・卸では30.1%にとどまっている。
加藤氏は「企業規模や業種・業界の違いによって、かなり温度差がある」と見る。
●DXで「何を目的にどのような取り組み」をしているのか
DXに「具体的に取り組んでいる」と回答した44.4%の企業に対し、さらにその目的や対象を6つの分類で尋ねた。
具体的には「守り」のDXが「Operation/業務処理の効率化・省力化」「Process/業務プロセスの抜本的な改革・再設計」「Management/経営データ可視化によるスピード経営・的確な意志決定」の3つであり、攻め」のDXが「Product・Service/既存の商品・サービスの高度化や提供価値向上」「Customer experience/顧客接点の抜本的改革」「Business Model/ビジネスモデルの抜本的改革」の3つである。
これらの目的・対象ごとのDXの取り組み状況について、「『守り』のDXのみに取り組む」と回答した企業は43%、「両方のDXに取り組む」と回答した企業は48%、「『攻め』のDXのみに取り組む」と回答した企業は6%となっている。
加藤氏は「日本の企業はまだ『守り』のDXが先行し、『攻め』のDXまで至っていないところがほとんど」と指摘した。
●DXに向けどのような取り組みをしているのか
調査では、「DXへの取り組みの巻き込みレベル」「DX推進専門組織設置状況/CDO(Chief Digital Officer)設置状況」「DX推進キーマンのポジション(役職、所属部署)」などのDXの推進構造についても確認している。
興味深いのは、「DX推進予算の増減傾向(トレンド・投資意欲)」に関してだ。DX推進のための予算が「増加傾向」にあると回答した企業が54.9%と高くなっている一方で、「減少傾向」にあると回答した企業は1.6%にすぎない。
「IT予算が減少傾向にある中で、DXの推進予算は着実に増えており、多くの企業がDXを重視していることがうかがえる」と加藤氏は分析する。
では、DXへの取り組みは実際のところどうなっているのか。調査では、「Operation」「Process」「Management」の3つの「守り」のDXと、「Product・Service」「Customer experience」「Business Model」の3つの「攻め」のDX、それぞれについて進捗状況を尋ねている。
「Operation」については、「本格活用・展開段階」と回答した企業が27.3%と取り組みが進んでいるものの、「Business Model」では、「助走段階」と回答した企業が42.7%となっており、ここでも「守り」のDXが先行していることがうかがえた。
また、DXの取り組みについて「うまくいっていると思うか」と尋ねたところ、ポジティブ(「強くそう思う」「おおむねそう思う」の合計)にとらえている企業は41.9%だったが、ネガティブ(「そう思わない」「あまりそう思わない」の合計)にとらえている企業が49.7%と上回った。
講演では、DX推進の成功企業の定義として、「守りのDX」および「攻めのDX」と、「実践前段階」「実践段階」とのマトリックスを作成、それぞれの象限でどのような「Essential-KFS(満たさないと失敗する要件)」「Booster-KFS(プラスに働く要件)」があるのかが、調査結果の分析を基に示された。
加藤氏は「DXは一様ではありません。DXの方向性、テーマによって直面する壁が異なるため、そこをどう乗り越えるかを考える必要がある。日本企業の『攻め』のDXは緒に就いたばかり。企業の経営環境の先行きは不透明かつ不確実だが、必要以上に不安に思ったり焦ったりせず、前向きに取り組んでほしい」とエールを送り、NTTデータ経営研究所が実施した今回のデータから読み取れるDX推進の成功要件を、広く提供したいと語った。