企業が陥りがちなDXの罠とは? 経営者自身の意識改革が何より重要な理由

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「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を聞く機会が増えている。関心を持つ企業も多いが、「そもそもなぜDXが求められるのか、DXを推進することで企業はどこに向かおうとしているのかの議論が熟さないまま、技術や手法ばかりに気を取られている例が少なくない」と指摘するのは、アイ・ティ・アール(ITR)会長でエグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏だ。課題はどこにあるのか、変革を推進するためにはどのようなポイントがあるのかを聞いた。

DXは業務の効率化にとどまらず企業そのものを大きく変えること

―― まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは具体的にどのような定義になっているのでしょうか。

アイ・ティ・アール(ITR)会長
エグゼクティブ・アナリスト
内山 悟志氏
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパン(現ガートナー ジャパン)でIT分野のシニアアナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。94年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。

内山 DXの概念は、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱したとされ、それによると「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」ということです。非常に抽象的でわかりにくいですね。

企業におけるDXの定義としては経済産業省が18年12月に発表した「DX推進ガイドライン」のほうがなじみやすいでしょう。ここでは、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。単なるICTの活用と異なるのは、業務の効率化などにとどまらず、「組織やプロセス、企業文化・風土」まで変革するという点です。企業そのものを大きく変えるという概念なのです。

―― 「経営者から『わが社もDXで何かやれ』と言われた」といった冗談めいた話も聞きます。何をすればいいのでしょうか。

内山 DXの取り組みは大きく2つに分けることができます。1つは、具体的なDXに関わる活動であり、もう1つはDXを推進するための環境整備とそれに向けた企業内改革の推進です。

ここでのポイントは、具体的なDXの実践も、業務の高度化や顧客への新規価値を創出する「漸進型イノベーション(深化)」と、新規ビジネスサービスの創出やビジネスモデルを変革する「不連続型イノベーション(探索)」の2つがあることです。

DXというと、自社が今までやったことのないような新規事業に進出するといったイメージを持つ人が多いのですが、長年やってきた事業をデジタル化したり、顧客との接点をさらに深掘りしたりするといったことも大切です。すなわち、これまでの既存事業を維持しつつ、新たな分野を開拓する、「深化」と「探索」の「両利きの経営」を身につけることが重要です。

―― 多くの企業がDXへの取り組みを開始し、中にはそのための組織を設置して、デジタル人材の確保や育成に取り組んでいるところもあります。ただ、そのような活動が成果につながっていないという声も少なくありません。理由はどこにあるのでしょうか。

内山 私はこれまで、多くの企業でDX戦略の立案や環境整備を支援してきました。その中で、DX推進を阻害する要因として5つの共通点があると感じました。とくに大手企業のほうがこの「罠」に陥りやすい傾向があります。それは「DXごっこの罠(どこを目指してDXを推進するのかが明確でない)」「総論賛成の罠(自分の部門・業務に影響が及ぶと反対する)」「後はよろしくの罠(人材をアサインしただけで終わったつもりになる)」「形から入る罠(制度の設置やアイデア公募などを始めるが続かない)」「過去の常識の罠(まず事例・前例を探す)」の5つです。

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