「日本」総キャッシュレス化の行方 消費者還元事業が起爆剤に

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政府による施策なども追い風に、ここにきてQRコード決済などのキャッシュレス決済の普及が一気に広がりつつある。一方で、決済サービスを提供する事業者の競争も激化している。こうした中、「日本におけるキャッシュレスのパイ自体はまだまだ伸びる可能性があり、全体が成長する中でどのような変化が起きるか楽しみだ」と話すのは、決済サービスに詳しい、決済サービスコンサルティング代表の宮居雅宣氏だ。これから日本のキャッシュレス化はどうなるのか、また、加盟店にとってメリットがあるのはどのような決済サービス事業者なのか、宮居氏に解説してもらった。

日本におけるキャッシュレス化の現状と行方

―最近になって、キャッシュレス決済ができる店舗が広がっているように感じます。どのような理由があるのでしょうか。

決済サービスコンサルティング代表
宮居 雅宣(みやいまさのり)

1990年ジェーシービー(JCB)入社。99年にFeliCaを大量発行しNFC対応方針を策定、2000年に業界代表幹事としてETCカードを実現するなど業界のIC化を牽引。05年野村総合研究所(NRI)入社。電子マネーの立上げや新決済サービス実現支援など実務経験に基づくコンサルや実行支援に従事、17年には行政機関や決済事業者などが参加する「キャッシュレス推進検討会」を主催。19年決済サービスコンサルティング設立。著書に『キャッシュレス革命2020』(日経BP社 共著)など多数

宮居 普及が急速に進んでいます。特徴的なのは、従来であれば、キャッシュレス決済を導入する企業は、大手の流通や飲食店チェーンなどが中心だったのですが、最近では、数店舗しかない地場のスーパーや百均、衣料品ディスカウントショップなど、「現金のみ」だった低価格帯の店舗でもキャッシュレス決済に対応し始めたことです。

背景には2019年10月1日の消費税率引き上げに伴い政府が開始した、キャッシュレス決済の消費者還元事業があります。消費者にとっては、同じ商品をA店で購入すれば5%還元されるのに、B店では還元されないとなると、A店を選ぶ人が増えるでしょう。加盟店にとっては自社のコスト負担なく、割引により集客ができるわけですから、この事業を利用しない手はありません。

―政府の還元事業に加えて、決済事業者も還元策で利用者を囲い込もうとしています。大規模なキャンペーンを行っているところもあります。

宮居 特に、QRコード決済事業者が高い還元率を打ち出しており、実際に利用者も増えています。ただし、現状は決済事業者の赤字覚悟の体力勝負になっているのも確かです。キャンペーン終了後に、どれだけ利用者が定着するか、成否はこれから判断されることになります。

―これからは、キャッシュレス決済事業者がどのような差別化できるサービスを提供できるかがカギになりそうです。

宮居 決済できるというだけでは差別化になりません。利用者や加盟店にとってメリットのあるサービスを提供できないと、いずれは淘汰されたり、ほかの決済事業者に吸収されることになるでしょう。私は、今後、キャッシュレス決済事業者の統合が進むと見ています。

利用者にとっては、例えば同じQRコード決済アプリを使っていれば割り勘ができるといったサービスは便利でしょう。ただし、全員がそのアプリを使っているとは限りません。それよりも、私は「サービス連携」と呼んでいるのですが、あるアプリを使っていれば、電気・ガス・水道料金の支払いのように、買い物してもタクシーに乗っても、いつの間にか支払いが終わっている、つまりサービスを利用すると支払うという行為を意識せず自然に支払いが完了し、しかも利用内容がきちんと管理できる仕組みが大事だと考えています。

決済データの収集は手段であって目的ではない

―加盟店にとって、パートナーとしてメリットのある決済サービス事業者とは、どのようなサービスを提供してくれる事業者でしょうか。

宮居 もちろん、自店の集客、売り上げアップに貢献してくれる事業者です。ポイント還元もその施策の1つになりますが、前述したように体力勝負になりやすく、いずれは平準化していくことが予想されます。

そうなったときに重要になるのは、顧客のライフイベントや嗜好を把握し、能動的に自店の有効活用を提案できるかです。もちろん、中には自社独自の会員カードやアプリなどを作って、顧客の消費履歴などを把握しマーケティングに生かそうとしているところもあるでしょう。ところがなかなかそれがうまくいきません。というのも、自社の会員カードやアプリでは、自分のお店の購入履歴しか取れないからです。

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