subscribed TOKYO 2019 GOODBYE,OWNERSHIP. HELLO,USERSHIP.
Digital Transformation
サスティナブルなサブスクリプションビジネス実現に向けて
デロイトトーマツコンサルティングの根岸弘光氏は、サブスクリプションのメリットとして、顧客の初期投資額を下げて購入障壁を除外することに加え、顧客の好む新サービスを提供し続けられることなどを指摘。持続可能なサブスクリプションには「顧客にカスタマイズできるサービスを継続的に提供しなければならない」と語り、素早くアプリケーションを作れるアジリティを持った開発プラットフォームと体制整備を訴えた。
アジリティの高い開発プラットフォームには、自動化可能な作業は自動化し、人は付加価値を生む作業に集中することで、素早い開発ができる環境が必要。また、IoTからのビッグデータだけでなく、基幹系システムなどに入っている既存の社内データから必要な情報を抽出、活用できなくてはならない。API連携を通じて、他社が持つ有用なサービス、情報を利用できるようにすることも求められる。そのための基盤として、サービスそのものを提供する基盤、顧客の嗜好を把握する利用状況分析基盤、Zuoraが提供している契約管理基盤、社内データが入った基幹系システムやSaaSとの連携基盤、他社サービスとのAPI連携基盤、迅速にアプリケーションを作れる開発基盤―の整備が重要だと訴えた。
また、IT部門についても、エラーなく基幹系システムを支えることに注力してきた従来のIT部門と異なり、サブスクリプションではアジリティへの高い意識が求められる。「まずやってみる」と言えるIT人材の育成・確保、新たな開発ルールやプロセス整備の必要性を求めた根岸氏は「チャレンジしてサービスを創出できるIT部門にならなければ、サブスクリプションビジネスは実現できない」と変化を促した。
Japan Customer Story II
B to Cビジネス
Digitize or Die、
破壊的イノベーションの時代のマーケティング戦略
富士フイルムの板橋祐一氏は、デジタル化により、写真の主なマネタイズが、フィルム、現像、プリントから、写真をシェアするSNSで広告による収入を得るなど、思いもよらないビジネスモデルが生まれたとして「イノベーションの本質は、技術が置き換わることではなく、ビジネスモデルが変わることにある。それは、新たなビジネスチャンスにもなる」と指摘した。顧客にフィルムという消耗品を繰り返し購入してもらうリカーリング・ビジネスで成長した同社は、顧客に繰り返し利用してもらえる新たな写真ビジネスとして、家族写真アルバムの作成「かぞくのきろく」や写真のクラウド保存「PhotoBank」のサブスクリプションサービスを開始。サブスクリプションによって「より深く顧客を理解し、より喜んでもらえるフォトライフを提供したい」と述べた。Zuoraを選んだ理由については、事業環境もビジネスモデルも変化が激しい中で「共に成長していけるパートナーであることが大事と考えている」と説明した。
Japan Customer Story II
B to Bビジネス
サブスクビジネス
円滑な展開へのヒント
ソフトバンクの大川啓一氏は「サブスクリプションビジネスの拡大は世界的潮流」として、同社もAIやロボットなど多彩な領域の戦略事業をサブスクリプションビジネスによって推進していることを説明した。ただ、多品種少量型の事業展開は、通信などのコア商材の課金基盤で扱うのに適さず、既存のシステム担当からのサポートも受けられないため、事業スピードの低下、売り上げの伸び悩みなどの課題に直面した。その打開策として、標準機能でマネタイズの設計、契約、回収、売り上げ管理まで対応できるZuoraのサブスクリプション管理基盤を導入し、戦略事業のITを包括的に支援する専門組織を立ち上げた。その過程で得た教訓として、サブスクリプション管理は早期に柔軟な基盤システムを導入する、適当なサービスを見つけてスモールスタートする、サービスの仕様は熟慮のうえ、関係者の意思統一をしてプロセスを前進させる、手間のかかる既存サービスのデータ移行は避ける――ことなどを勧めた。
Japan Customer Story II
B to Bビジネス
5万社が導入する「クラウドサイン」のフリーミアム設計とプライシング戦略の歴史
弁護士ドットコムの橘大地氏は、同社がサブスクリプションで提供するクラウド型電子契約サービス「クラウドサイン」の価格戦略について説明した。日本に根強く残る、紙とハンコによる契約は、締結に多大な手間がかかる。2015年にリリースしたクラウドサインは、普及のために、当初は月30件上限のフリーと、月額1万円・1件50円で件数上限のないスタンダードの2プランを用意。徐々にフリーの上限件数を減らす一方、外国語対応などの機能を追加してスタンダードの新規顧客に対しては1件ごとの費用を引き上げてきた。Zuoraは請求書作成から送信までを自動化。価格設定変更に伴う解約率などの影響も即座にわかることで、迅速な経営判断を支えた。2019年12月現在でさらにユーザー数も増加し、日本を代表する企業を含む約6万社が利用するサービスとなり「Zuoraが世界中のサブスクリプションビジネスの課題を解決する中で培った成長モデルに従うことで、われわれも成長できた」と語った。
KPIセッション
サブスクリプションビジネスをドライブするための管理会計とKPI
Zuoraの竹内尚志氏は「サブスクリプションは、従来の製品販売ビジネスとは異なる管理会計を適用すべき」として「期初のARR-チャーン+新規成長ARR=翌期の期初ARR」で表されるサブスクリプション会計管理の基本を説明した。期初のARRは、既存契約から得られる1年分の売り上げ。そこから、ダウンセルなどの差分も含めた解約分のチャーンを差し引き、その年の新規契約から得られる売り上げ増加分を加えた数字が、翌期の期初ARRになる。この翌期のARRを増やすことで、サブスクリプションビジネスは成長する。Zuoraが考案したサブスクリプションの損益計算書では、期初ARRから、チャーンのほかに売上原価、一般管理費、研究開発費で構成される定期コストを引いた定期利益を算出。この定期利益をどれくらい、成長コストの販売・マーケティング費用に投資するか、が経営判断のカギになる。そこで注目する指標が、獲得する新規成長ARRに対して、どれくらいの成長コストがかかるかを示すGEI(=成長コスト÷新規成長ARR)。高効率のマーケティング手法を採用するなどして、GEIを1以下にすれば、成長コスト以上のARR増加を見込むことができるようになる。サブスクリプションビジネスでは、チャーン、定期コスト、GEIの3指標をコントロールして成長コストに投資することで「将来の成功を確信できる」と語った。