タピオカで好調な紅茶市場、影の立役者は? スリランカと日本の「実は深い関係」

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スタッフが認証取得に向けてとくに苦心しているのが、「土壌の管理と保全」。豪雨などによって豊かな土壌が流されてしまわないように、根の深い草を植えるなど創意工夫を続けている

農園スタッフは認証トレーニングを通じて「記録をつける」ことを学ぶ。過去の事象と比べることで、結果の原因を探って対処するPDCAサイクルが生まれ、生産性も上がっていくのだという。ギリ氏と議論を交わしながら日々トレーニングに取り組む農園スタッフたちの表情には、紅茶葉づくりに対する熱い想いがにじみ出るのだそうだ。

「『いい茶葉をつくりたい』『ナンバーワンになりたい』という向上心を感じます。トレーニングにより茶葉の品質はもちろん労働生産性が上がるため、さらに改善意欲が増し、美しい茶畑が保たれるようになりました」と野村氏も誇らしげだ。こうした現場の変化は、茶葉生産を主力産業とするスリランカにとって大きな意義を持つだろう。

専門家のギリ氏がスタッフと協働して、認証取得に向けて活動している

現地農園スタッフの誰もが口にする、ある「想い」

インド洋に浮かぶ島国・スリランカ。その山岳地帯に広がる紅茶農園を訪れた時の感動を、同社の村上直子氏はこう話す。「連なる山々と、その急斜面に整えられた茶畑の美しさに息をのみました。見渡す限り茶畑が広がり、遠くで農園スタッフが紅茶の葉を手摘みしている光景は、まるで絵画のようでした」。

キリンビバレッジ
営業本部 営業部 営業企画担当 主任
村上 直子氏

これは、安全でおいしい茶葉づくりに取り組むうちに自然とたどり着いた光景なのだという。「心に残っているのは、年配の方から若い世代まで、あらゆるスタッフが『いい自然環境を次の世代に残したい』と口にしていたこと。だからこそ、認証取得にも真剣に取り組んでいるのだと思います。スタッフ一人ひとりが共通価値の創造を目指して働く姿は、理想的なCSV(Creating Shared Value)の先進組織像ともいえます」(村上氏)。

農園スタッフの意識の高さから、水源地保全という新たなプロジェクトも生まれた。

「スタッフとギリ氏の対話の中から挙がってきたのが、『水源地を保全したい』という声です。紅茶農園の中にある水源地は『ウォーターシェッド』と呼ばれ、さまざまな河川の源流になるなど価値が高い。しかし、スリランカは社会主義国で、土地所有の概念がありません。空いている土地を自由に使う人も多く、水源地が勝手に畑に替えられたり、ゴミ捨て場にされたりすることもあるんです。また最近は、異常気象の影響で深刻な干ばつも発生していて、水不足への懸念が広がっているという背景もあります」(村上氏)

そこでキリンは、水源地が保全されるよう柵で囲ったり、「そもそも、なぜ水源地が大切なのか」を近隣住民に伝えたりする取り組みを支援している。こうした活動は現在6カ所で行われており、今後さらに広がっていく見込みだ。

商品を通じて広めたい持続可能な紅茶葉づくり

こうした一連のプロジェクトは、思わぬ副産物も生み出した。

「当社は卸売りの会社を通じて紅茶葉を購入しているため、以前はスリランカではキリンという会社は知られていませんでした。しかしこうしたプロジェクトを通じて、キリンの存在が広く知られ、親しまれるようになったんです」(野村氏)。「私たちも、ただ認証マークが付いた茶葉だからよいと考えるのではなく、どんな人がどんな想いでどのように茶葉を育てているか、現地で見て肌で感じられるようになりました」と村上氏も満足げだ。

野村氏に、スリランカ支援の今後を尋ねた。「認証取得支援では、昨年から対象を小農園にも拡大しました。今後はもっと広げていきたいですね。そして何より『午後の紅茶』という身近な商品を通して、日本の消費者にも持続可能な農業を応援してほしい。それがスリランカ現地、そして紅茶葉農家へのさらなる支援につながっていくと考えています」(野村氏)。

社会貢献にとどまらず、原料生産地と紅茶葉づくりの持続可能性そのものを支えるキリン。その存在感は、今後さらに増していくことだろう。

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