タピオカで好調な紅茶市場、影の立役者は? スリランカと日本の「実は深い関係」

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最近、紅茶市場が注目を集めている。空前のタピオカミルクティーブームに加えて、ティースタンドや紅茶専門店が続々オープンしており、飲料メーカー各社の紅茶飲料も好調だ。中でも「キリン 午後の紅茶」は、2019年上半期の販売数が過去最高(※1)を記録した。紅茶飲料市場を牽引するキリングループ(以下、キリン)がスリランカで取り組む「持続可能な紅茶葉づくり」について探った。

(※1)2019年1~6月の累計販売数、同社調べ。2590万ケース(前年比108%)

世界有数の茶葉産地と日本の「実は深い関係」

近年、活況を呈する日本の紅茶市場。それを支えているのが、世界有数の紅茶葉産地であるスリランカだ。2018年の日本における紅茶葉の輸入量は約1万6258トン。そのうち、スリランカからの輸入量は約7513トンと最多だ(※2)。そんなスリランカ、実は日本と歴史的に深い関係にあることをご存じだろうか。

象徴的なのは1951年、サンフランシスコ平和会議でのこと。スリランカの故・ジャヤワルダナ大統領(当時はセイロンの蔵相)が、「憎悪は憎悪によってやむことなく、愛によってやむ」という 仏陀 ぶっだ の言葉を引用して演説を行い、日本に対する賠償請求権の放棄を明言したのだ。その後、国際社会への復帰を果たした日本は、病院や高速道路の建設に向けた資金援助など、スリランカに対して積極的に経済協力を行ってきた。

スリランカの紅茶葉農園には、小学校に向かう、真っ白な制服を着た子どもたちの元気な声が響きわたる

スリランカでは、26年もの間続いた内戦が2009年に終結。以後経済成長を続けている同国で、さまざまな支援活動を行っているのがキリンだ。「午後の紅茶」の味を長年支えている紅茶葉農園を支援しようと、07年に「キリン スリランカフレンドシッププロジェクト」を始めた。最初のプロジェクトは、紅茶農園の子どもたちが通う学校に本を寄贈する「キリンライブラリー」だった。16年末までに約100校に寄贈され、17年からの5年間でさらに100校への寄贈を目指している。

キリンから寄贈された本は熱心に読まれており、子どもたちの学力向上や、将来への夢を抱くきっかけとなっている

なぜ、わざわざ認証取得の段階から支援するのか

さらに、13年には「レインフォレスト・アライアンス認証取得支援」もスタートした。レインフォレスト・アライアンス認証とは、持続可能な農園であることを示す国際的な認証制度のこと。サステイナビリティーに必要な「環境保護・社会的公正・経済的競争力」のすべてを満たしていることを、第三者機関が監査し保証する。

認証を受けた農園の茶葉は、このマークを表示することができる。環境条件を知るための目安となる生物(指標種)であるカエルが、モチーフとして使用されている

認証を取得するには、初年度から70以上の項目に取り組む必要がある。項目の内容は農薬の制限や廃棄物の管理、労働者の生活向上など多岐にわたっており、それらをクリアすることで、持続可能な農園経営が実現する仕組みだ。「認証取得には自然環境や農園経営、労働環境などさまざまな知識が必要なので、専門家によるトレーニングが必須です。そこで、キリンでは意欲的な農園にトレーニング費用を支援しています」と語るのは、同社執行役員の野村隆治氏だ。

キリンホールディングス
執行役員 CSV戦略部長
野村 隆治氏

日本でも同認証を得た商品は増えつつあるが、認証取得の段階から支援する例は珍しい。「13年当時は内戦の影響が色濃く残っており、資金に余裕がない農園が多く見られました。そこで、単に認証茶葉を購入するのではなく、認証取得の過程そのものを支援することで持続可能な紅茶葉づくりを広めることにしたんです」(野村氏)。

同社が国際的NGO「レインフォレスト・アライアンス」を通じて現地のNGOに資金を提供。委託を受けたNGOの現地専門家、ギリ・カドゥルガムワ氏が、農園で実際の指導に当たるという仕組みだ。野村氏は、現地を視察した際のことを思い返しこう語る。

「トレーニングでは、ギリ氏が一方的に教えるのではなく、対話を通して解決方法を探っていきます。例えば、化学物質を安全に管理するにはどうすればいいか、農園内の住居の生活排水をどう処理するか、野生動物とどう共存するか。その農園に適した方法を現地のスタッフと一緒に考えていくんです」(野村氏)。さらに気候変動の影響による集中豪雨で農園が地滑りの被害を受けないように、茶畑に適切に下草を残すことも指導しているのだという。こうした地道な一つひとつの取り組みを通じて大きく変化しているのが、農園スタッフの意識だ。

「認証を受けた農園は、そうでない農園と比べると見ほれるほどに美しい。ゴミ1つ落ちていませんし、木も丁寧に手入れされています。いちばん印象的だったのは、現地の子どもが描いた絵に、さりげなくゴミ箱が描き込まれていたこと。教育が、親から子へ受け継がれていることがわかります」(野村氏)

(※2)農林水産省 農林水産物輸出入概況 2018年(平成30年) http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/attach/pdf/houkoku_gaikyou-15.pdf

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