為替リスクに対応できる知識や技術を加えることで、日本企業はさらに強くなれる
―― 日本企業がアジア地域に多く進出していることを受け、今後はアジア通貨との取引も増えることが予想されます。外国為替取引の重要性はますます高まってくると考えられますが、日本企業にはどのような取り組みが求められているのでしょうか。
佐藤 私は、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)において、東京大学の伊藤隆敏教授とそのグループで日本企業の為替リスク管理について調査・研究を行っています。
グループ内でグローバルに為替リスクを集中管理している大企業を除くと、日本企業の多くは先物為替予約以外のほかのデリバティブによるヘッジをあまり行っていません。中には為替予約で為替差損を回避することには限界があるという判断から、為替予約によるヘッジを行わない企業もあります。こうした企業は為替リスクヘッジにあまり経営資源を割かず、むしろ本業であるモノづくりに専念する傾向があります。
日本企業は競争力の高い製品を開発・生産するためにたゆまぬ努力を続けています。これは日本企業の強さの源泉ですが、為替戦略としてほかのデリバティブも活用するなど、為替リスクへの対応を一段と強化する余地があると思われます。
最近、中国人民元の国際化が注目されています。中国政府は人民元の国際的な使用促進を戦略的に進めており、特に貿易面で人民元建て取引を推進しています。しかし、中国が依然として資本取引に多くの制限を設けていることが、人民元の国際化の大きな制約になっています。日本企業に聞き取り調査をした際にも、資本取引への制限などを理由に人民元建て取引を行わないという企業が多くみられました。現在、日本の対アジア貿易のほとんどは米ドル建てもしくは円建てで行われています。アジア通貨が使用されるにはもう少し時間が必要です。
ただし、「オフショア人民元」が近年大きく成長しています。実需に基づく取引であることの証明書類を用意すれば、オフショア人民元で貿易決済が行えます。香港のオフショア人民元は利便性が高くなっており、この点に関する理解が深まれば、中国との取引が多い企業は人民元建ての取引を徐々に増やしていくかもしれません。
モノづくりの力に加え、最適な取引通貨の選択や為替リスクのヘッジ手法などに関する知識や技術を兼ね備えることで、日本企業がさらに国際競争力を発揮できると、大いに期待しています。