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国連で活躍の日本人が見た海外SDGs(後編) インドにおけるSDGs、その実態と日本企業

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この問題に対して現在、インドの各州政府は、対象年齢は州によって異なりますが、15~18歳の女の子に児童手当を出して、学校に継続して行ける環境をつくろうとしています。ただ児童手当の受給には、年齢や所得などの条件があり、現実にはうまく機能していないことも多いのです。条件が付くと、その条件を満たしている女の子の中でも、とくに貧困家庭は提出書類を用意できなかったりして支給漏れが発生することもあります。そのような状態で、女の子が学校に行けるように経済援助するには、どうすれば良いか。

私は、男女の性別も含めて一切の条件なしで手当てを支給する、ユニバーサルな児童手当にすべきだと考えており、実際にそのように政府に働きかけています。条件をつけると、支給する側もされる側も手続きが煩雑になり、結果、本当に届けたいところに届かなくなってしまうのです。

インドは人口が多いので、少しの制度変更でも数百から数千万、数億の人にインパクトがある。なんとか実現させたいですね。

インドは日本のアイデアを求めている

――とてもやりがいのある取り組みですね。

上田 はい。実際にスラム街に行って女の子たちに制度の話をしていたら、お母さんたちが寄ってきて、こう言われました。「政府がお金を出して、女の子を守ろうとしてくれていることがわかった。初めて女の子を産んでよかったと思えた」と。取り組みによって、お母さんたち世代の価値観まで変わっていくというのは、私にとっても思いがけない発見。とても勇気づけられました。

――このように海外で、いろいろな側面からSDGsに取り組まれている上田さんから見て、日本のSDGsに関する取り組み状況はどのように映りますか。

上田 日本においてはジェンダーや働き方に課題があると感じます。例えば私が所属するユニセフのインド国事務所では、ドイツに1ヵ月滞在してテレワークで働く人もいるなど、かなり柔軟な働き方が認められています。生き方やライフスタイルも多様化している今、日本もこれから変わっていくのではないかと期待しています。

逆に日本は優れたところもたくさんありますね。とくに防災分野はすばらしい。

実はインドも地震や台風が多い災害大国なので、日本の取り組みはぜひ参考にしたいところなのです。

ほかの分野でも見習いたいところはいろいろあります。インドは中所得国で、政府はそれなりに大きな予算を持っており、民間企業においても収益の2%をCSRに使わなくてはいけないという法律があるため、国全体としてSDGsに使える予算を十分に持っています。ところが、皆さん口々に「お金はあるけど、アイデアがない」とおっしゃるのですね。

そこで役立つのが、日本のアイデアなのです。インドの方々は、地震や少子高齢化などの課題に直面して、今まさに乗り越えようとしている日本を、アジアのロールモデルとして敬意を持って見ています。日本がアイデアというソフトパワーを提供することを、インドの方々は非常に興味をもち、歓迎している。

とくに民間企業には期待が大きいですね。例えば、日本でSDGsに取り組んで成功している企業が、インドに進出して同じ取り組みを始め、それを見たインド企業が真似をしていく。そうやって輪が広がっていけば、ビジネスが広がるだけではなく、SDGsの理念「誰一人取り残さない-No one will be left behind」の世界がグッと近づくはずです。日本の民間企業がインドに進出しそして、SDGsへも貢献をしてくださることを、私が駐在しているインドより期待しております。

*インタビュー内容は上田みさき氏個人の見解です

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