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国連で活躍の日本人が見た海外SDGs(後編) インドにおけるSDGs、その実態と日本企業

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  • エプソン販売 制作:東洋経済ブランドスタジオ
インド西部のグジャラート州に視察に訪れた際に撮影したもの。グジャラート州の浜辺に1年のうち半年だけ住む、遊漁民の娘たち。学校には一度も行ったことがない。しかし、将来の夢や希望をたくさん話してくれるその顔は、キラキラした素敵な笑顔だ(©上田みさき)
本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」WEBマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第4回の今回は、前回に引き続き、国連職員、ユニセフ インド国事務所社会政策、評価モニタリング部門のチーフである上田みさき氏に国連職員として海外から見えてくるSDGsの現状、日本のSDGsへの取り組み、インドでのSDGs現状についてお話をお聞きしています。

【後編】

なぜ、インドでは男の子ばかり生まれるのか?

――インドにおけるSDGsの具体的な進行状況はいかがでしょうか。

上田 イニシアチブを取っているのは、政策委員会と統計省になります。ただ実際には、中央政府も、州政府も、社会をよくしたいという思いは持っているものの、ターゲットを決めるというのが難しい状況にあります。なぜなら、ターゲットを決めるということになると、政府はコミットメントを求められるからです。必要な制度や政策がなかったり、政治的な思惑が絡んだり、なかなか前に進みにくい側面があります。今年は中央政府も、州政府も、選挙があったため、いったん政策の策定は止まってしまいました。ただ、選挙が終わったので、これから動き出すと思います。

――その中で施策を提言していくのは、大変そうですね。

上田 はい。私の担当である、子どもの貧困についてお話ししたいと思います。世界の絶対的貧困にある子どもの30%はインドにいると言われています(注1)。SDGsは経済的な側面における貧困だけでなく、栄養、保健、教育や水などへのアクセスを含む総合的な貧困を指標として測ることを推奨していますが、インド政府は総合的な新しい指標をまだ、決めていません。

ですので、新しい指標を策定する手法を伝えたり、政府を説得するということにも注力しています。

また指標だけではなく、政策提言もいろいろと行っています。インドでは5年前から「クリーン・インディア・キャンペーン」が行われていますが、これは、現在のモディ首相が肝煎りで始めたキャンペーンになり、2019年10月までに、屋外での排泄ゼロを目指して進められてきたものです。それまで、インドでは2011年時点で、約12億人(※2)のうち、およそ4割の人が、外で用を足していました。キャンペーンの結果、今では9割の人がトイレを使うようになっています。SDGsにおける健康・衛生分野では、こうしたキャンペーンのお手伝いや、制度の整備、モニタリングをしています。SDGsにおける目標6(「安全な水とトイレを世界中に」)ですね。

  • ※1 世界銀行の指標による、1日の所得が1.90ドル未満の世帯の子ども
  • ※2 外務省調べ
上田みさき氏
国連児童基金(ユニセフ)
インド国事務所
社会政策、評価モニタリング部門チーフ

――そのほかの分野ではいかがですか?

教育分野では、子どものドロップアウト問題に取り組んでいます。インドでは全体の初等教育における入学率は決して低いほうではありません。しかし、教育のクオリティーが低かったり、女性の進学率が低かったり、途中で学校に通わなくなる子どもも多い。それに対して、再び学校に戻ってこられる仕組みを整えたり、学校以外のインフォーマルな場で教育を受けられる機会をつくれないかと提言しています。

――中でも、上田さんがとくに力を入れている取り組みを教えてください。

上田 女の子の問題についてです。SDGsでもジェンダー平等の実現というゴールがありますが、インドでは女の子の出生数がほかの国と比べて多くありません。なぜだと思いますか?生まれる前に男女の性別を選別して中絶してしまうからです。インドの法律では男女の性別を告げることは禁止されていますが、医師が違法に教えてしまい、中絶してしまうのです。また、女の子は生まれてきても充分な教育を受けさせてもらえず、早く結婚させられる傾向も強く、女性差別は深刻です。女の子の早婚は、教育や社会進出の機会がなくなるだけでなく、若くして子供を出産することで、身体的な負担が次の世代まで受け継がれていくという、負の連鎖を起こします。

この問題に対して現在、インドの各州政府は、対象年齢は州によって異なりますが、15~18歳の女の子に児童手当を出して、学校に継続して行ける環境をつくろうとしています。ただ児童手当の受給には、年齢や所得などの条件があり、現実にはうまく機能していないことも多いのです。条件が付くと、その条件を満たしている女の子の中でも、とくに貧困家庭は提出書類を用意できなかったりして支給漏れが発生することもあります。そのような状態で、女の子が学校に行けるように経済援助するには、どうすれば良いか。

私は、男女の性別も含めて一切の条件なしで手当てを支給する、ユニバーサルな児童手当にすべきだと考えており、実際にそのように政府に働きかけています。条件をつけると、支給する側もされる側も手続きが煩雑になり、結果、本当に届けたいところに届かなくなってしまうのです。

インドは人口が多いので、少しの制度変更でも数百から数千万、数億の人にインパクトがある。なんとか実現させたいですね。

インドは日本のアイデアを求めている

――とてもやりがいのある取り組みですね。

上田 はい。実際にスラム街に行って女の子たちに制度の話をしていたら、お母さんたちが寄ってきて、こう言われました。「政府がお金を出して、女の子を守ろうとしてくれていることがわかった。初めて女の子を産んでよかったと思えた」と。取り組みによって、お母さんたち世代の価値観まで変わっていくというのは、私にとっても思いがけない発見。とても勇気づけられました。

――このように海外で、いろいろな側面からSDGsに取り組まれている上田さんから見て、日本のSDGsに関する取り組み状況はどのように映りますか。

上田 日本においてはジェンダーや働き方に課題があると感じます。例えば私が所属するユニセフのインド国事務所では、ドイツに1ヵ月滞在してテレワークで働く人もいるなど、かなり柔軟な働き方が認められています。生き方やライフスタイルも多様化している今、日本もこれから変わっていくのではないかと期待しています。

逆に日本は優れたところもたくさんありますね。とくに防災分野はすばらしい。

実はインドも地震や台風が多い災害大国なので、日本の取り組みはぜひ参考にしたいところなのです。

ほかの分野でも見習いたいところはいろいろあります。インドは中所得国で、政府はそれなりに大きな予算を持っており、民間企業においても収益の2%をCSRに使わなくてはいけないという法律があるため、国全体としてSDGsに使える予算を十分に持っています。ところが、皆さん口々に「お金はあるけど、アイデアがない」とおっしゃるのですね。

そこで役立つのが、日本のアイデアなのです。インドの方々は、地震や少子高齢化などの課題に直面して、今まさに乗り越えようとしている日本を、アジアのロールモデルとして敬意を持って見ています。日本がアイデアというソフトパワーを提供することを、インドの方々は非常に興味をもち、歓迎している。

とくに民間企業には期待が大きいですね。例えば、日本でSDGsに取り組んで成功している企業が、インドに進出して同じ取り組みを始め、それを見たインド企業が真似をしていく。そうやって輪が広がっていけば、ビジネスが広がるだけではなく、SDGsの理念「誰一人取り残さない-No one will be left behind」の世界がグッと近づくはずです。日本の民間企業がインドに進出しそして、SDGsへも貢献をしてくださることを、私が駐在しているインドより期待しております。

*インタビュー内容は上田みさき氏個人の見解です

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