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キリン「一番搾り」過去10年で売り上げNo.1 ビール変革期にヒットする商品の特徴とは?

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  • キリンビール 制作:東洋経済ブランドスタジオ
若者の酒離れや改正酒税法による酒の安売り規制強化の影響で、ビール類市場が苦戦を強いられる中、キリンビールが誇るフラッグシップブランド「一番搾り」が一人気を吐いている。今年4月に行われた4回目となるフルリニューアル後、売り上げは好調。夏になっても勢いは衰えず、8月と9月の「一番搾り」の売り上げは過去10年で最高(※)を記録した。なぜ今、多くの人に支持されるのか。ヒットの要因を探った。
※ 過去10年の「一番搾り」〈缶〉8月・9月の各月出荷実績と比較(キリンビール調べ)

ビール類市場の縮小に歯止めがかからない。国内ビールメーカー5社でつくる「ビール酒造組合」のレポートによると、2018年の課税移出数量は前年比94.8%。05年から14年連続の減少となった。

背景にあるといわれているのが、ミレニアル世代を中心とした若者の酒離れや、酒税法の改正による酒の安売り規制強化の影響だ。縮小傾向は今も続いており、今年の上半期の販売数量は大手4社合計で前年を1%下回った。

こうした厳しい市場環境の中、好調を維持しているのがキリンビールだ。同社も市場の縮小に長らく引きずられていたが、今年上半期のビール類販売数量が前年同期比で102%となり、ついにプラス成長に転じたのだ。

この反転を牽引しているブランドの1つが「一番搾り」。「一番搾り」といえば、1990年の発売以来、消費者に長く親しまれているキリンビールのフラッグシップブランドだ。一般的にロングセラーブランドは安定的に売れることはあっても、再び火がついて成長するケースは少ない。しかし、「一番搾り」の今年8月と9月の売り上げは、過去10年で最高を記録している。

30年近く親しまれ続けているブランドがなぜ、ここにきて再び売り上げを伸ばしているのか。

直接の要因は、この春に行われたフルリニューアルだろう。「一番搾り」は過去に3回のフルリニューアルを行っているが、4回目の今回、とくにこだわったのは「おいしさ」の追求だ。

そもそも「一番搾り」は、麦から最初に流れ出る一番搾り麦汁をぜいたくに使用して、雑味のない上品な味わいを実現している。その特徴を引き継ぎながらも、今回は澄んだ麦のうま味とホップの風味を調和させて、さらに飲み飽きないおいしさへと進化させた。

多くの消費者から愛される「おいしさ」とは?

おいしさが進化したことは、SNSの反応を見るとよくわかる。今回のフルリニューアル後、さまざまな食卓のシーンとともに、「一番搾り」が投稿されている。

※一部加工しております

アップされた画像は、たこ焼きやギョーザ、枝豆といった定番に加え、玉せんやカレー、パンなど、多種多様な料理や食材がズラリと並ぶ。これは、フルリニューアルされた「一番搾り」が料理を選ばない王道的なおいしさ、つまり、飲みやすく、飽きのこない、そして、多くの消費者から愛される「おいしさ」を備えたビールへと進化を遂げたからだろう。

同社常務執行役員の山形光晴氏は、今回のフルリニューアルについてこう言及する。

「女性のさらなる社会進出や働き方改革、中食の充実など、人々のライフスタイルは変化しています。それに伴い、ビールも『男性が仕事終わりに飲むもの』『男性の成功の証し』といったイメージから、さまざまな人々の『ちょっとおいしいものを味わいたい』という気持ちを満たす『日々の幸せを実感できるもの』へと変わってきました。

今はビール市場の変革期。飽きのこないおいしさを追求した今回のフルリニューアルは、新時代に合致したものといえるでしょう」

キリンビールはなぜ、飲み飽きないおいしさを実現したフルリニューアルという、正しい方向へと進化させることができたのか。間接的な要因として見逃せないのは、同社社長の布施孝之氏による組織風土改革だ。

布施氏は15年に就任してから、社員とひざ詰めの対話集会を繰り返して、問題意識のある若手社員や労働組合をも巻き込んだディスカッションを重ねてきた。そこで伝えたメッセージの1つが、「真にお客様のことをいちばんに考える組織風土に」。これまで以上に、「判断基準はお客様に」を徹底しようと説き続けた。

対話集会は40カ所、議論した相手は延べ900人に及んだ。また、若手選抜社員を対象に「布施塾」も開講するなど、トップ自ら発信を続けた結果、社員の意識は着実に変わっていったという。

「一番搾り」が「おいしさ」を追求したのは、まさに判断基準を消費者に置いたからだった。ビールを語るときの表現として、これまでは「コク」や「キレ」といった言葉が使われることが多かった。同社もコクやキレを念頭に置いて商品開発やマーケティング活動を展開してきた。

しかし、顧客のニーズを問い直すことなく商品開発やマーケティング活動を続けるのは、会社都合にすぎない。そこで消費者がビールを選ぶときのポイントを改めて調査すると、「おいしさ」という回答が最多であることが判明。かくしてフルリニューアルで目指すべき進化の方向性が決まったのだ。

ビール類首位奪還に向け、まだまだ続く「布施改革」

布施氏は改革の中で、「現場が主役。本社はサポート」というメッセージを打ち出している。この考え方も、すでに社員にしっかりと浸透しているのだろう。今回の「一番搾り」フルリニューアル時には、九州の消費者20万人に「一番搾り」を味わう機会を提供する取り組みを行うなど、営業現場が自発的に企画を考えて動いた。こうした全社一丸の活動も、現在の好調さを支える要因の1つといえる。

改革の成果はすでに表れ始めているが、これはまだ序章にすぎない。

「ビールだけがつくれる毎日の喜びがある。今年前半は勝つことができたが、ビール類首位奪還に向けて、さらなる改革を推し進めます」と力強く語る布施氏。新時代にマッチした「一番搾り」が、その原動力になるのは間違いないだろう。