キリン「一番搾り」過去10年で売り上げNo.1 ビール変革期にヒットする商品の特徴とは?
同社常務執行役員の山形光晴氏は、今回のフルリニューアルについてこう言及する。
「女性のさらなる社会進出や働き方改革、中食の充実など、人々のライフスタイルは変化しています。それに伴い、ビールも『男性が仕事終わりに飲むもの』『男性の成功の証し』といったイメージから、さまざまな人々の『ちょっとおいしいものを味わいたい』という気持ちを満たす『日々の幸せを実感できるもの』へと変わってきました。
今はビール市場の変革期。飽きのこないおいしさを追求した今回のフルリニューアルは、新時代に合致したものといえるでしょう」
キリンビールはなぜ、飲み飽きないおいしさを実現したフルリニューアルという、正しい方向へと進化させることができたのか。間接的な要因として見逃せないのは、同社社長の布施孝之氏による組織風土改革だ。
布施氏は15年に就任してから、社員とひざ詰めの対話集会を繰り返して、問題意識のある若手社員や労働組合をも巻き込んだディスカッションを重ねてきた。そこで伝えたメッセージの1つが、「真にお客様のことをいちばんに考える組織風土に」。これまで以上に、「判断基準はお客様に」を徹底しようと説き続けた。
対話集会は40カ所、議論した相手は延べ900人に及んだ。また、若手選抜社員を対象に「布施塾」も開講するなど、トップ自ら発信を続けた結果、社員の意識は着実に変わっていったという。
「一番搾り」が「おいしさ」を追求したのは、まさに判断基準を消費者に置いたからだった。ビールを語るときの表現として、これまでは「コク」や「キレ」といった言葉が使われることが多かった。同社もコクやキレを念頭に置いて商品開発やマーケティング活動を展開してきた。
しかし、顧客のニーズを問い直すことなく商品開発やマーケティング活動を続けるのは、会社都合にすぎない。そこで消費者がビールを選ぶときのポイントを改めて調査すると、「おいしさ」という回答が最多であることが判明。かくしてフルリニューアルで目指すべき進化の方向性が決まったのだ。
ビール類首位奪還に向け、まだまだ続く「布施改革」
布施氏は改革の中で、「現場が主役。本社はサポート」というメッセージを打ち出している。この考え方も、すでに社員にしっかりと浸透しているのだろう。今回の「一番搾り」フルリニューアル時には、九州の消費者20万人に「一番搾り」を味わう機会を提供する取り組みを行うなど、営業現場が自発的に企画を考えて動いた。こうした全社一丸の活動も、現在の好調さを支える要因の1つといえる。
改革の成果はすでに表れ始めているが、これはまだ序章にすぎない。
「ビールだけがつくれる毎日の喜びがある。今年前半は勝つことができたが、ビール類首位奪還に向けて、さらなる改革を推し進めます」と力強く語る布施氏。新時代にマッチした「一番搾り」が、その原動力になるのは間違いないだろう。