物流の枠組みを超えた発想で付加価値を創造 変わりゆく物流の現場にどう対応すべきか

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いわゆる「宅配クライシス」は、皮肉にも、これまであまり意識されることのなかった物流の重要性が広く認識されるきっかけとなった。企業経営において、物流の効率化がその良しあしを左右するといわれる中、実際の物流の現場では何が起きているのか。そして、今後どう変わっていくのか。日本の物流事情に詳しい、東京海洋大学理事の黒川久幸氏に話を聞いた。

物流の効率化に対する企業経営者の意識の変化

――日本の物流業界はなぜ、慢性的に人手不足なのでしょうか。

黒川 日本の物流業界の人手不足、とくにトラックドライバー不足は深刻です。これは、1990年に制定された物流2法による規制緩和の影響が大きいといわれています。競争の促進で企業規模を拡大させる狙いがあったのですが、貨物自動車運送事業者数は20年で4万社から6.3万社に急増し、増加の約8割が保有車両数10両以下の零細事業者です。

規制緩和後、価格競争が激化し、運賃・料金が低下する一方、環境対策などで車両価格や燃料費が上昇し、事業者の利益率が下がっています。その結果、人件費にシワ寄せがいき、トラックドライバーの賃金が低く抑えられています。それでいて、長時間労働が常態化していることが多く、若手の確保もままならず、ドライバーの高齢化が進んでいます。

労働条件を改善しなければ、慢性的な人手不足は解消されないでしょう。

――EC市場が年々拡大しています。

東京海洋大学
理事
黒川 久幸氏
1990年、東京商船大学(現・東京海洋大学)商船学部卒業。96年、東京大学大学院工学系研究科単位取得退学。東京海洋大学教授などを経て、2019年より現職。専門は物流管理工学や流通設計論

黒川 2018年の消費者向けEC市場規模は約18兆円と、10年前のおよそ3倍に拡大しています。人口減少によって全体の貨物輸送量は減っているものの、消費者ニーズの高度化・多様化に伴って、貨物の小口化・多頻度化が進んでいます。その影響で、大型トラックドライバーの賃金が10年ごろから上がり始め、小型トラックドライバーの賃金もその後を追うように上がり始めました。

物流全体では、物流施設の業務改善を進めるなど、トータルでコストを抑えてきたのですが、ここにきて人件費の上昇もあり、あまり物流に興味のなかった企業も関心を持たざるをえない状況になってきました。

物流コストが低かった頃、ある食品メーカーは、生産効率の観点から工場ごとに生産する製品を絞って地域間輸送していました。そうすることで多様化する消費者ニーズに応えようとしていたのですが、物流コストの高騰などで、わずか5年の間に売上原価が5.7%も上昇したため、販管費の削減などで営業利益を確保している状況です。しかし、販売のための経費を削ればモノは売れなくなり、在庫回転率も低下してしまいます。

従来、日本企業は海外の企業と比べると、物流をあまり意識していませんでしたが、物流の効率化が企業経営の良しあしを左右するという認識が広がり、経営者の意識も大きく変わってきました。

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