斬新!ダイキンの「イタリア新オフィス」に潜入 働き方改革は今、世界中でアツいテーマだ
Write:神原サリー(家電+ライフスタイルプロデューサー)
世界150カ国で事業を展開するグローバル企業・ダイキン。各地域で現地に根付いた取り組みをしており、それが世界各地で売り上げを伸ばしている理由でもある。中でも、今回取り上げるダイキンエアコンディショニング イタリア社(以下、ダイキンイタリア)
日本と同じく四季があり、季節ごとの寒暖の差が大きいイタリアでは、
ところが2003年、西ヨーロッパ地域の大半が「欧州熱波」と呼ばれる記録的な猛暑に見舞われ、イタリアでも3000人以上が亡くなるという痛ましい出来事が発生。これが、エアコンの必要性が注目されるきっかけとなった。さらには08年のリーマンショックで経済的に打撃を受け、夏のバカンスを諦めざるをえない人が急増。エアコンが必需品となった。
こうした中で、ダイキンは寝苦しい夜にも静かに運転する機能や、風量と風向を自動で調整して風が体に直接当たりにくい気流を実現した独自のエアコンを開発。ただ空気を冷やすだけではなく、就寝時の快適性やインテリア性を兼ね備えたエアコンを発売して人気を博し、イタリアでの立ち位置を確固たるものにしたのだ。
※2018年度内平均の1ユーロ=128円で換算
社員は第1のステークホルダーであり、会社の伝道師
ダイキンイタリアのスローガンは「空気でイタリアを幸せにする。ダイキンをイタリアの文化にする」というもの。オフィスの受付近くの壁にも「Il clima per la vita(あなたの生活に合った空気をお届けします)」から始まるメッセージが書かれているのが目に入ってきて、その熱い思いが感じられる。
同社取締役社長の亀川隆行氏は「ダイキンというブランドは、今やイタリアの8割の人に知られています。マーケットリーダーとして質のいいものを届けるだけではなく、人々の暮らしをよりよいものにしたい。すべての気候に合わせて空気環境を快適にするためのソリューションを提供して、人々を幸せにする。それこそがダイキンイタリアの使命なのです」と語る。
この強い思いを社員はもちろん取引先などダイキンに関わるすべての人が共有することで、ダイキンファンを増やしながらエンドユーザーにまで伝える仕組みを同社では「エコシステム(生態系)」と呼ぶ。それを具現化する基盤となるのが、今回訪れたオフィスだ。
エコシステムの構築において、まず同社は、社員が働きやすいオフィスづくりを主眼に置いたという。なぜなら、社員は第1のステークホルダーであり、会社の伝道師だから。細長い建物の中央に会議室が設けられ、窓からの光が十分に行き届く社員のワークスペースは明るく開放的だ。
各部署のリーダーも個室にこもることなく、部下たちと同じスペースにデスクを置いて、気軽に交流を持てるようになっている。ファーストクラスのキャビンを思わせるユニークなデザインのデスクで個室のような雰囲気を漂わせつつ、立ち上がれば誰とでも話せるところが絶妙だ。家族の写真や趣味の小物などを並べ居心地のよさそうなスペースづくりをしている。
向かい合った社員同士のデスクの仕切りには防音仕様のボードを使って、仕事に集中できるようにしているのも、声の大きいイタリア人が多く働く会社ならではの配慮。さらには、安心して電話ができる密室の電話ブースや、こもって考え事をしたい人向けの個室、少人数でひざを突き合わせて議論できるミニ会議室などもあり、仕事の内容や気分に応じて伸び伸びと自由に働ける仕掛けが随所にあってワクワクさせられる。
このオフィスに移転してからの社員の様子について、ルームエアコンのマーケティングおよび営業のゼネラルマネージャーを務めるアントニオ・ボンジョルノ氏は「これまで会議といえば大きなスペースに集まり、ファシリテーターの議事進行にしたがって進めることが多かったのですが、もっと自由に共有エリアでコミュニケーションを取れるようになりました」と最近のポジティブな変化について語る。働きやすい環境で一人ひとりの社員が生き生きと働くことで、周囲を巻き込みながら、相乗効果を生みだしている。
「居心地のよいオフィス」で効率向上を狙う
大きなテーブルの脇には随分とおしゃれないすが置かれているのが目を引く。聞けばここは営業スタッフがオフィスに来たときに使うスペースだそうで、「普段は外にいる営業スタッフがオフィスに戻ってきたとき快適に感じてもらえるよう、スタイリッシュで座り心地のいいものを選んだのです。オプションでクッションもつけたんですよ」と亀川氏はにっこり。座らせてもらうと、確かに極上の座り心地だ。
社員たちが自然に交流を持てる休憩スペースもあり、あちらこちらに置かれたクッションのようなスツールや観葉植物など、どこを見ても居心地のよさが感じられる。あるべきオフィスの姿を導き出すため、事前にデザイナーとワークショップを行ったという話に大いに納得した。
注目すべきは、オフィスとしての機能だけではなく、専売代理店向けの「おもてなしのショールーム」やサービス拠点も併設されていることだ。
ショールームでは、商談に使うテーブルといすのセットや、スペースのないところでもさまざまな形に組み合わせて使えるモジュールデスクなど、店舗にそのまま置いて活用できるオフィス家具の提案までしているのが特徴だ。
壁には日本で「risora」の名前で販売されている、機能性とデザイン性の両方にこだわったエアコン「stylish」や、ヨーロッパデザインの「EMURA2」のほか、イタリアでは未発売だが日本で好評を得ている、洗面所やキッチンなど小空間向けの空調機器「ココタス」などが展示され、展示品ごとに床と天井が三角形に仕切られている。床はカーペットが三角形に薄く色分けされ、天井にはLEDライトで三角形が作られており、空間そのものを邪魔しない仕掛けだ。
同社マーケティング部長のエレナ・センシ氏は「このトライアングルはダイキンのロゴからインスピレーションを得て考えられたもの。店によって広さが違っても、トライアングルをいくつか組み合わせることで空間づくりができることを示しています。テーブルやいすのデザインにこだわっているのは、少しでもイタリア人が美しいと思うデザインコンセプトに近づけたいから。アイデア次第でエアコンもインテリアになることがわかるショールームになっていると思います」と語る。
1階に降りると、南館「KIZUNA」と北館「DOJO」に分かれる。「KIZUNA」は、開放的な空間に木製のいすが並べられ、セミナーやイベントができるスペースが各所に設けられている。内容に応じてレイアウトを変えながらまるで大学のように自由に学べる雰囲気にあふれており、ダイキンが顧客や学生と情報やアイデアを共有し、共に学び成長していくための場となっている。
「KIZUNA」のネーミングは実は、ダイキンイタリアではすでにおなじみのものだ。亀川氏が社長に就任して間もなくの2014年12月、エアコンの保証期間を2年から4年に延長した際に、このサービスを「顧客との強い関係性」を意味する「KIZUNA」と命名。南館のコンセプトに合うため、今回、こちらにも採用されたという。
2019年6月にはここで「循環型経済に関してのイベント」が行われ、100人以上の集客があったとのこと。SNSでも1000人以上がつながり、ダイキンイタリアのファンづくりに大きく貢献したことがわかる。
一方の「DOJO」は技術研修の場や、サービス協力店のスタッフたちが製品を試運転できる場となっている。扉を開けるごとにエアコンや室外機ほかさまざまな機械が並び、修理を依頼された際に故障箇所を探る研修ができる部屋まで用意されている。「学生は未来の施工業者と考え、エンドユーザーにもこの場所を開放し、学んでもらう機会をつくっている」というセンシ氏の話に、先のエコシステムの構築が結び付く。
目指すは子どもが憧れる「2世代続くお店」
「DOJO」では2018年5月、サービスゲーム「技能オリンピック」のイタリア予選が開催された。これは、ダイキンの世界中のサービスエンジニアが据え付けや修理などの技能の高さを競い合うもの。50人が参加し、勝ち抜いた2人は世界大会への出場を目指して、次はベルギーで開催される欧州予選に参加予定だ。こうした取り組みも、サービス協力店の人々が誇りを持って仕事をし、その姿に子どもが憧れて職を継ぐ"2世代続くお店"を目指しているからだ。
亀川氏は取材の最後に「今回のオフィスは、未来の従業員のためにもどうしてもミラノ市内に構えたかったのです。ここはミラノ中心街から徒歩圏内の立地。地方の人にとって、このオフィスが行ってみたい場所となるのは大切な要素です。大型空調機の工場もオフィスから車で20分ほどの距離にあり、『DOJO』に置かれた設備機器だけでなく、生産の現場まで見てもらえるのは大きい」とも。
AIやIoTの先進技術が大きく進化している昨今。ダイキンは近年、すべてのテクノロジーを自前で調達していてはビジネス競争に勝ち残れないという危機感から、「協創」というキーワードを掲げて、他企業や大学との協業を積極的に進めてきた。「協創」の対象は社外に限らず、これまで関わりが薄かった社内の部署同士も含んでいる。
コミュニケーションを活性化させるダイキンイタリアの取り組みは、まさに社内の「協創」を促すものといえよう。亀川氏も「われわれがオフィスを通して取り組んでいることは、
同社が目指す「エコシステム」は、