IASB前理事らが語る修正案公表の「ウラ側」 IFRS第17号で「保険会計」はどう変わる?

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KPMGジャパンの三輪登信氏は、監査人の立場から着目点を3つ挙げる。

KPMGジャパン 保険カントリーヘッド
あずさ監査法人 パートナー
三輪登信氏

「1つ目は、投資リターンサービスと投資関連サービス。これは損益計算書のトップラインに影響するので非常に大きな問題ですが、今回の公開草案の書き方はアバウトで、実務上どのようにトップラインが認識されることになるのかが明確ではないと思います。

2つ目は、不利な契約に対する再保険からの利益の認識について。考え方自体はわかるのですが、再保険からコストしか出ない場面でも利益認識してよいとなっている点は疑問に思います。

3つ目は、更新契約に係る保険獲得キャッシュフローで、これも繰り延べの期間などの決定に実務上幅が生じうる可能性があり、監査人としても頭の痛い問題です」

生保・損保それぞれが抱える実務上の課題

アクサ生命保険の西村昭氏は、生保の立場から次のように語った。

アクサ生命保険 バリュエーションヘッド
西村昭氏

「最も苦労しているのは移行アプローチです。生保は保険期間が長く、オープニングバランスをどのようにつくるかが非常に重要ですが、利害関係者が多すぎて結論が出ない状況です。

また、欧州の保険会社への規制であるソルベンシーIIとの整合性の問題もあります。目的は異なりますが共通点が多いので、できれば共通のインフラを使って作業を効率化したいのですが、そうすると会計が規制側に引っ張られるという悩みがあります。

さらに、導入に向けてはチェンジマネジメントが必要です。ファイナンス以外のチームに導入プロジェクトをサポートしてもらうのは難しい。経営陣を含め、社内にこのプロジェクトが重要だと理解してもらい、興味関心に火をつけることが重要だと思っています」

東京海上ホールディングスの荒川潔氏は、生損保を含むグループ会社の連結業務と損保単体の双方を担当する立場からこう説明する。

東京海上ホールディングス 経理部 マネージャー
荒川潔氏

「ホールディングスとしては、会計がIFRSベースでない現地法人にIFRSベースの会計を別につくってもらったり、決算期のズレが許容されなくなることで3月決算に合わせた数字をつくってもらったりする必要が生じています。

グループ会社間の再保険取引の消去の問題もあり、限られた時間の中でうまく消去する仕組みを構築するのは大変です。また、トップラインの概念が変わる中、IFRSベースのKPI設定を含む経営管理をどうしていくかも、これからの大きな課題となります。

一方、損保単体としてはIFRS対応に必要なデータが必ずしも整備されていないことが最大の問題で、従来必要なかったデータが過去にさかのぼって必要になるなど、何をどこまで整備しなければいけないのか、落としどころが見えにくい状況です」

KPMGジャパンでは、IFRS第17号の監査方法についてもグローバルに議論をしており、今後もセミナーやHPなどでIFRS第17号関連の情報発信を行っていく。

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