IASB前理事らが語る修正案公表の「ウラ側」 IFRS第17号で「保険会計」はどう変わる?

保険契約に関する従来の基準である国際財務報告基準(IFRS)第4号は、「保険会社間の業績比較が困難」という課題があり、国際会計基準審議会(IASB)は2017年5月にIFRS第17号「保険契約」の最終基準を公表した。
ところが、IASBは適用上の課題や利害関係者からの懸念などを踏まえ、19年6月に当初の基準書を一部修正する公開草案を公表。この公開草案には、IFRS第17号の発効日を1年遅らせ、22年1月1日以降に開始する事業年度からとすることも含まれている。

中央大学商学部 特任教授
山田辰己氏
4大国際会計事務所「KPMG」のメンバーファームであるKPMGジャパンが開いた本セミナーは、この公開草案をテーマとし、IASBで集中的に議論された25項目について解説したあと、利害関係者らによるパネルディスカッションが行われた。
モデレーターを務めたIASB元理事で中央大学商学部特任教授の山田辰己氏から、今回の公開草案を公表した背景について解説を求められたIASB前理事の鶯地隆継氏は、修正作業に関わった立場から次のように述べた。

鶯地隆継氏
「11年にIASBの理事に就任し、この6月までIFRS第17号の議論をしていました。
取りまとめるときは、本当にこれでファイナライズしてよいのかという意見がかなりあって、公表した直後からTRG(Transition Resource Group)という適用上の課題などを議論する会議の場を設置することになりました。TRGでの議論を踏まえて、IASBでもさまざまな議論が行われ、今回の修正で17号のネイチャーが変わるような話もあります。
まだ最終的な修正は確定していませんので、どういう方向性になるか、皆さんのご意見が非常に重要です」
利害関係者らはIFRS第17号修正案をどう見ているのか
日本格付研究所の水口啓子氏は、公開草案をこう評価した。

水口啓子氏
「財務諸表の利用者としては、保険契約の収益構造などの経済的実態を捉える方向性を視野に入れているIFRS第17号の導入については大いに歓迎しています。
一方で、複数の測定モデルがあるのでどう分析すればよいかという思いもありますし、移行措置などのさまざまな複雑性を勘案すると、計算過程が不透明になるリスクもあります。こうしたリスクについて手当てをしていただくことが非常に重要になると思います。
延期期間だけでなく適用開始後も、関係者による継続的な考察の深化と、その結果として保険契約に関する情報の有用性が高まることを望んでいます」