「アナログ経理」が握る、日本企業の命運 停滞する日本経済を打破するカギがここに?
日本の実質賃金指数は、1997年から2016年までの20年間で89.7%に低下している。一方でアメリカやフランス、イギリス(製造業)、ドイツといった先進各国は、軒並み115%以上に上昇している(※3)。
「他国の企業が、賃金が上がる中でも生き残れるようなビジネスモデルを模索し構築してきた一方で、日本企業は20年前と同水準あるいは低水準の賃金水準が前提とされてきた。これでは生産性が上がらないのは当然でしょう。今、新しいテクノロジーが世の中を変えつつあります。しかし、単に人間がやっている仕事をITに代替させ、人手不足を補ったり人件費を削減したりするだけでは大した価値は生まれません。ITを利用して、自社のビジネスの付加価値をどうやって高めるかを、経営者は考える必要があるんです。
確かにITシステムやAI、ロボットは労働代替的ではあるのですが、代替だけでは発展性はありません。そうではなく、重要なことは『テクノロジーと労働者の補完性』をいかに生み出すか。独立して存在するもの同士が、互いの長所を生かして、より完成度の高いものを作り上げる。この関係性こそが、ビジネスを向上させるカギなのです」(伊藤氏)
大企業を中心に働き方改革が少しずつ実現されつつある一方、昨今話題を集めているとおり、日本の雇用システムは限界を迎えている。労働のあり方そのものが、大きく変わろうとしている状態だ。こうした経営環境の中で、日本企業がグローバルなビジネス競争に勝つには、現状を打破するような変化、いわば「破壊的イノベーション」を起こすことが必要なのだという。
「テクノロジーがこれだけ飛躍的に進歩している中で、企業の行動パターンはそれほど変わっていない。このギャップが、業種・業態を超えた大きな問題になっています。私は、既存のものをよりよくする『改良型イノベーション』はもとより、常識を覆すような『破壊的イノベーション』を起こす企業がどれだけ出てくるかに、日本の将来がかかっていると考えています。例えば経理部門のように、どの会社にも備わっていながらデジタル化が見過ごされがちな部門に新しくITの風を吹き込むことで、何らかの変化のきっかけをつかめるかもしれません」(伊藤氏)
経理のデジタル化は、経営レベルの課題
「InTheBlack Tokyo」で語られたとおり、「アナログ決算からの脱却」をして経理業務のデジタル化を推進することには、さまざまなメリットがある。生産性が向上し働き方改革の実現に一歩近づくだけでなく、企業全体の最適なリソース配分、経営判断の迅速化などにつながる。より多くのリソースをより生産的・本質的な業務に投入することができれば、ビジネスの高付加価値化や新たな事業の創出にもつながっていくだろう。
見方を変えれば、経理部門のデジタル化には、経営を高度化する大きなチャンスが隠れているといえる。その意味では、経理のデジタル化はもはや現場レベルの課題ではない。CFOはもちろんCEOが本気で取り組むべき経営課題となりつつあるのだ。
※3 出典:全国労働組合総連合「実質賃金指数の推移の国際比較」