
「アナログ経理」が経営判断の遅れに直結
2001年にアメリカで創業したブラックラインは、経理業務の自動化サービスにいち早くチャレンジした企業。世界150カ国・地域で2800社、約23万人のユーザーに支持されている。今や経理のデジタル化をリードする、クラウドプロバイダーだ。19年8月、同社主催のイベント「InTheBlack Tokyo」が東京・六本木で開催され、多くのビジネスパーソンが詰めかけた。
テリース・タッカー
「アナログ決算からの脱却」をテーマに据えた本イベントでは、まず基調講演として同社のテリース・タッカー Founder&CEO(創立者&最高経営責任者)が登壇し、こう述べた。「経理の分野はルールが多く、細かな数字が変わりながらの反復作業がたくさん発生するので、まさに自動化にうってつけ。ビジネスインサイトを得られない定型業務は自動化し、CFO(最高財務責任者)はより創造的で重大な課題に集中するべきです。そうすることで、社内における経理部門への信頼も高まるでしょう。当社の使命はこうした課題を解決する、財務会計の変革にあると自負しています」。
マーク・ハフマン
次に、マーク・ハフマンCOO(最高執行責任者)が登壇し、次のように語った。「日本のビジネスシーンで重要視されている『働き方改革』。当社のテクノロジーと専門知識をフルに活用して、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)、そして働き方改革の実現に貢献していきたいと考えています。業種・業態によらずどんな会社にもある『経理部門』でDXを実現することには大きな意味があります。すべてのことを一瞬でかなえることはできませんから、ステップ・バイ・ステップで進めていきましょう。これまで海外で培ってきたノウハウや専門知識を、日本市場に広めていきたいと考えています。当社の強みに、ぜひご期待ください」。
続いて、日本法人の古濱淑子代表取締役社長が登壇しプレゼンテーションを行った。
古濱 淑子
「CFOは、生産性、スピード、ガバナンスという3つの課題を抱えています。その解決のため、CFOの97%が自動化の必要性を感じている(※1)ものの、実際の進捗は遅い。とくに、決算処理や外部監査の分野ではまだまだ進んでいません。経理現場の課題解決には、考え方と業務プロセスを見直す必要があります。
日本企業の経理部は属人性が高いことに加え、締め処理が終了してから次の処理を始める『直列処理』文化が根強いことが特徴。しかし当社は、締めの時期にかかわらず継続的に経理業務を回す『コンティニュアス・アカウンティング』というコンセプトを提唱しています。これにより決算の早期化が可能となるうえ、経理の見える化、透明性が向上し、ガバナンスが強化されます」と訴えた。
最後には「令和時代の働き方と脱アナログ化が不可欠な理由」と題し、東京大学名誉教授の伊藤元重氏による特別基調講演が行われた。直近の日本の潜在成長率は0.74%(※2)で、アメリカやイギリスなど先進国と比較してとりわけ低いというデータを引きながら、その解決策を探った。
伊藤元重 氏
「潜在成長率は労働投入量と資本投入量、そして生産性によって決まります。日本は少子高齢化や国内需要の低下、生産性の低迷などの要素が相まって、潜在成長率が低くなっている。これはかなり悲惨な状況だと認識しています」(伊藤氏)
※1 出典:一般社団法人日本CFO協会実施 財務マネジメントサーベイ「~平成から令和へ~ 経理財務部門のデジタルトランスフォーメーションに関する実態と課題の調査」実施期間:2019年7月1日~7月19日
※2 出典:日本銀行「需給ギャップと潜在成長率」2019年7月3日掲載
日本の実質賃金指数は、1997年から2016年までの20年間で89.7%に低下している。一方でアメリカやフランス、イギリス(製造業)、ドイツといった先進各国は、軒並み115%以上に上昇している(※3)。
「他国の企業が、賃金が上がる中でも生き残れるようなビジネスモデルを模索し構築してきた一方で、日本企業は20年前と同水準あるいは低水準の賃金水準が前提とされてきた。これでは生産性が上がらないのは当然でしょう。今、新しいテクノロジーが世の中を変えつつあります。しかし、単に人間がやっている仕事をITに代替させ、人手不足を補ったり人件費を削減したりするだけでは大した価値は生まれません。ITを利用して、自社のビジネスの付加価値をどうやって高めるかを、経営者は考える必要があるんです。
確かにITシステムやAI、ロボットは労働代替的ではあるのですが、代替だけでは発展性はありません。そうではなく、重要なことは『テクノロジーと労働者の補完性』をいかに生み出すか。独立して存在するもの同士が、互いの長所を生かして、より完成度の高いものを作り上げる。この関係性こそが、ビジネスを向上させるカギなのです」(伊藤氏)
大企業を中心に働き方改革が少しずつ実現されつつある一方、昨今話題を集めているとおり、日本の雇用システムは限界を迎えている。労働のあり方そのものが、大きく変わろうとしている状態だ。こうした経営環境の中で、日本企業がグローバルなビジネス競争に勝つには、現状を打破するような変化、いわば「破壊的イノベーション」を起こすことが必要なのだという。
「テクノロジーがこれだけ飛躍的に進歩している中で、企業の行動パターンはそれほど変わっていない。このギャップが、業種・業態を超えた大きな問題になっています。私は、既存のものをよりよくする『改良型イノベーション』はもとより、常識を覆すような『破壊的イノベーション』を起こす企業がどれだけ出てくるかに、日本の将来がかかっていると考えています。例えば経理部門のように、どの会社にも備わっていながらデジタル化が見過ごされがちな部門に新しくITの風を吹き込むことで、何らかの変化のきっかけをつかめるかもしれません」(伊藤氏)
経理のデジタル化は、経営レベルの課題
「InTheBlack Tokyo」で語られたとおり、「アナログ決算からの脱却」をして経理業務のデジタル化を推進することには、さまざまなメリットがある。生産性が向上し働き方改革の実現に一歩近づくだけでなく、企業全体の最適なリソース配分、経営判断の迅速化などにつながる。より多くのリソースをより生産的・本質的な業務に投入することができれば、ビジネスの高付加価値化や新たな事業の創出にもつながっていくだろう。
見方を変えれば、経理部門のデジタル化には、経営を高度化する大きなチャンスが隠れているといえる。その意味では、経理のデジタル化はもはや現場レベルの課題ではない。CFOはもちろんCEOが本気で取り組むべき経営課題となりつつあるのだ。
※3 出典:全国労働組合総連合「実質賃金指数の推移の国際比較」