企業と顧客の関係「サブスク」で劇的に変わる いかにユーザーに寄り添い選び続けてもらうか

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サブスクリプション型のビジネスモデルが急増している。だが、必ずしも成功しているケースばかりではない。そこにはサブスクリプションに対する“誤解”がある。サブスクリプションが成功する条件とは何か。サブスクリプションに詳しい経営学者の川上昌直氏に話を聞いた。

課金スタイルだけまねしてもうまくいかない

――最近は、月額料金を払えばコーヒーが飲み放題というサブスクリプション型の喫茶店まで登場しています。なぜ、サブスクリプション型のビジネスモデルが増えているのでしょうか。

モノが売れない、モノを買わない、そういう消費傾向の中で、定額使い放題のサービスが人気を集めたことが一因でしょう。サブスクリプションは、クラウドを通じてソフトウェアを提供する企業を中心に急拡大した収益化モデルです。高額なパッケージ製品を購入するより、月額定額で使い放題、しかもつねに最新のバージョンにアップデートして使える製品のほうがはるかにいい。そのことに気づいたユーザーから一気に広まったのです。

しかし今は、定額という課金のスタイルだけまねて、サブスクリプションと言っている企業やサービスが少なくありません。サブスクリプションを「定額課金」とか「継続課金」と訳しているメディアもありますが、それは誤解です。

――では、本来のサブスクリプションとは?

サブスクリプション(subscription)の語源には「申し込む」とか「購読する」という意味があります。簡単に言えば、サブスクリプションとは「継続購入」モデルなのです。ただし、モノでもサービスでも、顧客に「継続して買いたい」と思わせるのは並大抵のことではありません。そもそも、顧客と強いつながりがないとできないからです。提供する企業側とユーザー側にメンバーシップが成立していることが前提であり、どこまでユーザーに寄り添うことができるかが重要です。ずっと同じモノやサービスを提供し続けていたら、ユーザーに飽きられてしまいます。そのため、モノやサービスをつねにアップデートすることが必要になるのです。

IoTと親和性が高いサブスクリプション

――従来からあるモノを売り切るタイプのモデルでも、アフターサービスなどで顧客とのつながりを保持している企業はたくさんあります。

兵庫県立大学
国際商経学部 教授
川上昌直
1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、2012年兵庫県立大学経営学部教授、学部再編により現職。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。専門はビジネスモデル、マネタイズ。サブスクリプションの仕組みを解明した近著『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)が好評発売中。こちらから全文の試し読みができます(2019年10月20日まで)

その程度では、もはや競争に勝てない時代になっていることを認識してほしいですね。サブスクリプションの語源に「申し込む」という意味があると言いましたが、申し込むのはユーザーです。つまり、ユーザーの側に主導権がある。企業が契約で縛るのではなく、いかにユーザーに喜んで選び続けてもらえるようにするかが大切なのです。

当然、ユーザーの要望もアップデートしていきます。企業が提供するサービスやモノも、ユーザーの要望に合った最適なタイミングでアップデートしていかなければなりません。それができなければ、いくら収益化モデルをサブスクリプションに変えても成功しないでしょう。

――現実的にそんなことができるのでしょうか。

例えば、クラウドを通じてソフトウェアを提供する企業は、ユーザーの製品の使用状況をログイン回数などで把握できます。頻繁に利用していたユーザーのログイン回数が、急に減ったら、解約する可能性が高いと気づくのではないでしょうか。だから、解約される前に何らかの対策を打つことができますよね。

IoTの時代なら、そういうことがもっと簡単にできるようになります。サブスクリプションで、電子レンジを提供するとしましょう。その電子レンジがインターネットでつながっていれば、ソフトウェアをアップデートして、新たな機能を追加したりすることもできるようになります。例えば自動車も、自動運転のソフトが搭載されていない車を買ったユーザーが自動運転車が欲しくなったら、新しいソフトウェアをダウンロードすればいいわけです。今はそういうことができる時代になりました。

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