マイナンバーカードはデジタル社会の必需品 IT化する国民生活を支えるインフラとは?
行政手続きにおけるマイナンバーの利用が始まったのは、2016年1月のこと。背景にあったのは少子高齢化だ。社会保障制度を受給者と負担者がともに納得感のあるものとして、今後も維持するには、社会保障費の不正受給や脱税を防いで、公平性を担保することが欠かせない。そこで、所得を正確に把握するため、税と社会保障、災害の分野でマイナンバー制度が導入されたのだ。
あまり知られていないが、漢字やフリガナの問題も大きい。種類が限られているアルファベットと違い、日本人の名前に使われる漢字は種類が無数にあり、IT処理に適さない。フリガナについても、同じ「中島」でも「ナカジマ」「ナカシマ」というように、複数の読み方があるため、突合の際に混乱が起きやすい。そのため、名前以外に住所や生年月日なども使って突合するが、そうした複雑さが“消えた年金問題”の一因にもなっていたという。
後発ゆえに実現できた安全性と利便性の両立
実は、諸外国には日本よりも早く番号制度を導入している国があったけれども、遅かったゆえに、先に導入していた国の事例の弱点を踏まえて対応することができた。
例えば、アメリカの社会保障番号は、紙のカードで本人確認手段が伴っていない。そのため現場では、「番号をすらすら言えたら本人」といった甘い運用をしていた例もあり、なりすまし事件が多発していた。一方、北欧はICカードに個人認証システムを載せているが、プライバシーより利便性を優先した設計になっている。
内閣官房内閣審議官の向井治紀氏は、日本のマイナンバーカードの特長について、次のように語る。
「日本のマイナンバーカードは、高いセキュリティーと利便性をハイブリッドで実現しています。マイナンバーそのものは、税、社会保障および災害という限られた分野でしか使いません。マイナンバーカードには、マイナンバーと別の体系のシリアル番号を使ったICチップを搭載していて、そのICチップを官と民が活用することで、利便性も確保しています」
税や社会保障を扱う行政機関では、マイナンバーを利用することで事務処理が効率化され、情報連携※が進んでいる。また、諸外国と比べてカード設計も洗練されているが、マイナンバーカードの普及率は伸び悩んでいるのが実情だ。最も大きな理由の1つは、マイナンバーカードを取得することによるメリットがあまり知られていないということだろう。また、取得しなくても現在の生活に直ちに支障を来すわけではないため、インセンティブが働かないのかもしれない。
しかし、あまり知られていないだけで、マイナンバーカードには、大きなメリットを感じられる場面は多い。向井氏は自らの体験をこう明かしてくれた。
「実際に私が利用して便利だったのは、住民票をコンビニで取得できたときですね。働いていると、窓口が開いている時間に役所に行くのはほぼ無理。夜遅くでも取得できたので助かりました。また、運転免許証を持っていない私の姉から、『顔写真付きの身分証明書での本人確認が必要なときに役立った』と褒められました」
※情報連携:住民が行政手続きでの提出書類を省略できるよう、専用のネットワークシステムを用いて、異なる行政機関の間で情報をやり取りすること