老舗企業ミツカンをDXに駆り立てる原動力 「伝統を守る」食酢市場におけるデジタル戦略

※1 帝国データバンク「老舗企業」の実態調査(2019年)より
老舗企業ほど「変革」が必要な理由
現代の新興企業は、創業したときからデジタルを基盤として事業を構築している。デジタル基盤によってもたらされる高い生産性や顧客の利便性は、それを持たない企業に対して大きなアドバンテージになる。裏を返せば、老舗企業は、それらデジタルネイティブの企業と渡り合うために、伝統を引き継ぎつつも過去にとらわれない大胆な「変革」を行って、デジタル戦略を推し進める必要があるだろう。

国内有数の老舗企業でありながら、積極的にDXに取り組んでいる企業がある。日本を代表する食品メーカーである「ミツカン」だ。同社は創業215年を数え、食酢市場でトップシェアを誇る。日本のみならず欧米を中心に世界でも事業を展開し、今や売上比率の半分以上を海外で稼ぐグローバル企業となった。
デジタル戦略を担うCDOを外部招聘
ミツカンがデジタル戦略に本腰を入れ始めたのは、2019年に入ってからだ。そのリード役として、前年にはCDO(Chief Digital Officer)のポストを創設。欧米ではCDOを置く企業が多いが、日本ではまだ5%にすぎない※2。老舗企業に限れば、さらに珍しい役職である。

株式会社Mizkan Holdings
執行役員Chief Digital Officer
デジタル戦略本部 本部長
CDOに就任したのは、外資系企業でキャリアを積み、マーケティング企業や小売企業でデジタル戦略をリードしてきた渡邉英右氏。社内に多くの人材を抱える大企業が、外部から人材を招聘するのは異例なこと。このことからもミツカンがデジタル戦略に懸ける本気度がうかがえる。
DXの取り組みは始まったばかりだが、具体的な施策としてとくに力を入れているのは、デジタルマーケティングの導入と、サプライチェーンの最適化だ。マーケティングは、BtoC企業にとって売り上げに直結する生命線。サプライチェーンも、調達から物流まで手がけるメーカーにとって収益を大きく左右する要素だ。それぞれにデジタルを活用してこれまで以上の価値を出すことができれば、さらなる成長が見込めるだろう。
※2 総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)より
伝統を守るためにこそ変革を行う
一般論として、これまでの積み重ねがある老舗企業はしがらみが多く、容易に変革に踏み切れないものだ。とりわけミツカンのように業界トップシェアを誇る企業は、成功体験が強烈なだけに、そもそも現状を変革する必要性を感じていないケースも多い。