「美肌温泉」メカニズム解明のヒント明らかに カギとなるのは細胞の「感覚センサー」
気が遠くなるような作業を伴うが、高石氏は「理論では正しくても、人の感覚は非常に複雑で、思いどおりの結果を得られないことが多々あります。それでも前向きに研究に取り組めるのは、自分たちがつくる化粧品を安全はもちろんのこと、快適に使っていただき機能性を実感してほしい、生活者のために役立ちたいという思いがあるからです」と話す。
では、冒頭の肌トラブルと炎症反応の話に戻ろう。この仕組みを発見したのも、トリップチャネルが温度刺激に関与する点に着想を得ているという。
肌の炎症反応を抑える成分「アルムK」とは?
例えば、風邪をひいたときに熱が出るのは、熱が上がることで免疫反応に関わる「TRPM2」を活性化させるスイッチが入り、免疫機能を増強させて体内に侵入したウイルスを退治するからだ。
「TRPM2」と同じグループに属する「TRPM4」も、T細胞や単球などの免疫細胞で発現し、免疫反応を調整していることが以前から知られている。一方、近年の研究で肌細胞(表皮角化細胞)が免疫反応に関わっていることも明らかになってきた。
こうした点と点を結び、マンダムでは「『TRPM4』が肌細胞に存在していて、肌の免疫反応を調整しているのではないか。これが事実ならば、『TRPM4』を活性化することで、肌トラブルのもととなる肌の炎症反応を抑えられるのではないか」という仮説を立て、それを日本で初めて実証した。
その「TRPM4」を活性化する成分が、明礬温泉の主成分でもある「アルムK」であることが、マンダムの研究によって明らかになった。モニターで使用試験も実施した結果、肌状態の改善の有無を確認。現在、「TRPM4」の新しい活性化剤として特許出願中だ。
「今後もトリップチャネルに関する知見をマンダムの強みとして、商品開発を進めていきます。これまでは感覚刺激の分野でトリップチャネルを活用してきましたが、今回新たに肌の免疫機能への働きも発見しました。
とくに『TRPM4』は、肌の上から塗布して保湿するのではなく、細胞の中から肌を守るというコンセプトになるため、今までとは異なるアプローチでスキンケア商品の可能性を広げていけると考えています。
また、トリップチャネルには『TRPA1』『TRPM8』『TRPM4』のほかにもさまざまな種類がある。それらのメカニズムをもっと探究していけば、人間の快・不快を推し量る代替評価法がさらにクリアになり、より『安全、機能、快適』を追求した化粧品を開発できると考えています」(高石氏)
安全、機能、快適を追求・検証し、使う人に心地よく、役立つ化粧品づくりに邁進する「人間系企業」マンダム。尽きることのない社員の情熱に突き動かされて、その挑戦は果てなく続くことだろう。