疲れていたり、精神的なストレスを感じたりすると肌のハリが失われたり、乾燥したり、毛穴が開いたりして肌が荒れる。そういった経験は、誰にでもあるはずだ。
「実は、こうした肌トラブルの多くに、炎症反応が深く関わっています。そして今回、この炎症反応がトリップチャネルの1つである『TRPM4(トリップエムフォー)』の活性化によって抑制できることがわかったのです」と話すのはマンダムの製品保証部 評価分析室の主任・高石雅之氏だ。
発見のカギとなったのは、マンダムが2005年から15年以上にわたって続けているトリップチャネル研究である。トリップチャネルとは、氷やお湯などの温度刺激や、ミントのメントール(清涼感成分)やトウガラシのカプサイシン(辛み成分)などによる化学刺激に反応し、「熱い」「冷たい」「痛い」といった感覚を与える、体中に存在する細胞の感覚センサーだ。
業界初TRPチャネルを応用した感覚刺激の評価法開発
セルフ販売による化粧品を展開してきたマンダムは、「安全、機能、快適」の3要素をトレードオフにしない製品開発を目指している。安全で機能的であるのはもちろん、快適に使用できることに何よりこだわっているのだ。
そこで開発したのが、業界初となるトリップチャネルを応用した「感覚刺激の評価法」。この評価法を利用して、不快な感覚刺激を起こす成分を把握。不快感を抑える物質を探索することで、快適に使用できる製品の実現に努めている。
例えば、ヘアカラー使用時のピリピリ感を抑制する成分の探索に成功。また目にクレンジングなどが入ってしまったときのツーンとする刺激のメカニズムも明らかにするなど、次々と研究成果を上げている。
もはや夏の定番となった汗拭きシートもしかりだ。あのスーッとする心地よさも、トリップチャネル研究の賜物で、私たちがひんやりとした清涼感を感じるのは、メントールが「TRPM8」と呼ばれる冷感センサーを活性化するからである。
一方で、清涼化粧品に欠かせない成分メントールは、より強い清涼感を得るために多量に配合すると、痛みのセンサーである「TRPA1」まで活性化してヒリヒリとした灼熱感を生む。そこで「TRPM8」の活性を高めるが、「TRPA1」を活性させないようにコントロールすることで、不快な刺激を感じずに快適な清涼感を楽しめるというわけである。
「何百種類もある安全な原料成分の中から『TRPM8』を活性、『TRPA1』を不活性にするものをスクリーニングして探索、12年にユーカリ由来の天然成分であるユーカリプトールを、18年にはにおいの少ないイソボルニルオキシエタノールを見つけ出しました。こうして日夜、新たな成分探索を行っています。

そして細胞試験で確認しながら機能性と快適性のバランスが取れた配合を考え、実際にその処方がわれわれの考えた感覚と一致するのか、まずは研究員たちが実際に体感。それぞれの感覚をすり合わせ、議論を重ねて処方を微調整した後、モニターによる使用実験を何度も行ったうえで、最終商品に仕上げます」(高石氏)
製品保証部 評価分析室
主任
高石雅之
気が遠くなるような作業を伴うが、高石氏は「理論では正しくても、人の感覚は非常に複雑で、思いどおりの結果を得られないことが多々あります。それでも前向きに研究に取り組めるのは、自分たちがつくる化粧品を安全はもちろんのこと、快適に使っていただき機能性を実感してほしい、生活者のために役立ちたいという思いがあるからです」と話す。
では、冒頭の肌トラブルと炎症反応の話に戻ろう。この仕組みを発見したのも、トリップチャネルが温度刺激に関与する点に着想を得ているという。
肌の炎症反応を抑える成分「アルムK」とは?
例えば、風邪をひいたときに熱が出るのは、熱が上がることで免疫反応に関わる「TRPM2」を活性化させるスイッチが入り、免疫機能を増強させて体内に侵入したウイルスを退治するからだ。
「TRPM2」と同じグループに属する「TRPM4」も、T細胞や単球などの免疫細胞で発現し、免疫反応を調整していることが以前から知られている。一方、近年の研究で肌細胞(表皮角化細胞)が免疫反応に関わっていることも明らかになってきた。
こうした点と点を結び、マンダムでは「『TRPM4』が肌細胞に存在していて、肌の免疫反応を調整しているのではないか。これが事実ならば、『TRPM4』を活性化することで、肌トラブルのもととなる肌の炎症反応を抑えられるのではないか」という仮説を立て、それを日本で初めて実証した。
その「TRPM4」を活性化する成分が、明礬温泉の主成分でもある「アルムK」であることが、マンダムの研究によって明らかになった。モニターで使用試験も実施した結果、肌状態の改善の有無を確認。現在、「TRPM4」の新しい活性化剤として特許出願中だ。
「今後もトリップチャネルに関する知見をマンダムの強みとして、商品開発を進めていきます。これまでは感覚刺激の分野でトリップチャネルを活用してきましたが、今回新たに肌の免疫機能への働きも発見しました。
とくに『TRPM4』は、肌の上から塗布して保湿するのではなく、細胞の中から肌を守るというコンセプトになるため、今までとは異なるアプローチでスキンケア商品の可能性を広げていけると考えています。
また、トリップチャネルには『TRPA1』『TRPM8』『TRPM4』のほかにもさまざまな種類がある。それらのメカニズムをもっと探究していけば、人間の快・不快を推し量る代替評価法がさらにクリアになり、より『安全、機能、快適』を追求した化粧品を開発できると考えています」(高石氏)
安全、機能、快適を追求・検証し、使う人に心地よく、役立つ化粧品づくりに邁進する「人間系企業」マンダム。尽きることのない社員の情熱に突き動かされて、その挑戦は果てなく続くことだろう。