ERC725/735が生み出すビジネス展開の可能性 今注目の自己主権型アイデンティティとは
ERC725/735によるアイデンティティ管理実装の勘所
2018年9月創業のスタートアップ、BlockBaseの真木大樹・代表取締役CEOは、早くからERC725/735を活用したプロジェクトを実施している。1つはHR系企業のERC725によるID管理、もう1つは大学院の学位記証明や在学期間中のポートフォリオのID管理を行うシステム「DigiD」である。※DigiDは経済産業省開催の「ブロックチェーンハッカソン2019」で最優秀賞を受賞
HR系企業のケースでは、まず従来行っていた従業員のアカウント管理を、ERC725/735を使って置き換え。併せて従業員の利用を促進するために、従業員の個人評価システムを載せ、優良と認定された従業員のアカウントにEthereumを投げ銭として授受できるインセンティブを設定した。
一方、DigiDは大学院が発行した学位記などの認証情報をユーザー(院生、修了生)の公開鍵によって暗号化し、ブロックチェーンに記録。ユーザーの許可の下、大学は証明書などを発行できる。ユーザーはID管理をスマートフォンのアプリケーション画面で操作して行い、証明書などは秘密鍵のQRコードを用いて、即時に企業などへ提出が可能だ。
「実証実験を通してわかったことは、集約された情報をパブリックにし、それに対して価値が付与される仕組みにおいて、ERC725はかなりフィットするということ。また、ブロックチェーン導入のハードルを下げるには、インセンティブが必要だ。さらに秘密鍵の管理は思った以上に大変で、秘密鍵に有効期限を設けたり、コントラクトウォレットによって秘密鍵を複数人で管理したりするなどの漏洩防止対策が要る」などの勘所を披露した。
「ERC725はプロキシ、ERC735はレジストリの役割を担う。非常にシンプルな仕組みだが、1つのIDにつながるサービスは多岐にわたる。トレーサビリティーや顧客確認(KYC)にも活用できるなど、その広がりはかなり大きい」と所感を述べた。
ブロックチェーン本格導入に向け検討すべきこと
フォー・ホースメンの田村氏曰く「ガートナー社の日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクルと矢野経済研究所の国内ブロックチェーン活用サービス市場規模調査、さらにブロックチェーン先進ユーザーの動向を見ると、2018〜19年を境にブロックチェーンが本格的な商用化フェーズに入ったといえる。おそらく10年後にはIoT社会が実現するだろう。IoTを支える技術の1つがブロックチェーンであり、IoT社会ではすべての産業構造が激変する可能性がある」と未来を展望した。
そのうえで、ブロックチェーン自体にはスケーラビリティー、セキュリティー、ガバナンス等の課題があるが、「それぞれの課題要件を検討し、適切な対応措置を講じていけば問題のほとんどは解決、回避できる段階にきており、本番システム適用は可能である」との認識を示した。
ただし、ビジネスでの本格運用に向けては業務適合性、ブロックチェーンの選択、周辺ツールの選択という3つの視点からの検討が必要になる。「ブロックチェーンの活用で何でも解決できるわけではない。スイートスポットは狭いと理解して適用業務や利用する技術、環境、周辺ツールを選択していくべき」と留意点を述べた。
業務領域でいえば、IDの管理、トークン(アセット)管理、情報共有の3領域とブロックチェーンの相性はよく、活用メリットは大きい。「とくにID管理は確実に適合する領域で、ERC725/735の実装は強力なソリューションとして新たなビジネスの可能性を開くはず」と言う。
ブロックチェーンの選択については、「これが最適解という意味ではないが」と前置きしたうえで、田村氏が調査を進めた結果として選択したブロックチェーン(Quorum)とBaaS環境(Kaleido)を紹介。「ブロックチェーンの導入に際して、つい実証実験にばかり目を向けてしまうが、実は周辺ツールの選択も重要だ。システム開発・運用を行うためにはアプリ基盤、実行基盤、運用基盤、開発基盤という4つのツールが必要になる。ブロックチェーンは実行基盤のコンピューティング部分を担うだけであり、周辺ツールがそろわなければ実用には進めない。さまざまな周辺ツールの検証をクリアして、本格導入に向けての一歩を踏み出していただきたい」と締めくくった。