
技術と技術、人と人との融合は、シナジーを生み、競争力を高める
―中小企業を取り巻く状況を教えてください。
理事長
豊永 厚志氏
1981年東京大学法学部卒業。同年通商産業省入省。経済産業省大臣官房商務流通保安審議官、日本政策金融公庫 代表取締役専務取締役 中小企業事業本部長、中小企業庁長官、株式会社みずほ銀行顧問を経て、2019年4月より現職。
豊永 1986年に533万者あった中小企業数は、2016年に358万者となり、30年間で175万者が減少しました。中身を見ると、相対的に規模の大きい中小企業より、小規模事業者の減少が激しいですね。背景にあるのは、少子高齢化による経営者の高齢化と人手不足です。これらの問題は景気の上下にかかわらず進行しており、私たちも大きな課題として認識しています。
日本全体で見れば雇用吸収力はさほど落ちていないものの、企業数の減少は地域や業種によってばらつきがあり、大きなダメージを受けているところもあります。経済の活力を考えれば、各地域で多くの事業が存続し、また新しく創業されていくことが重要です。
―事業存続のカギを握る事業承継ですが、近年はどのような傾向が見られますか。
豊永 まず見て取れるのが、親族外承継の増加です。20~30年前は、親族内承継が事業承継の約80%を占めていましたが、現在では55%まで減り、そのぶん親族外承継が増えています。これは先ほども挙げた、日本全体の少子高齢化に伴って起きている現象と考えられます。
また60代の後継者が減り、40代以下が増加しています。このような比較的若い経営者の増加は、事業承継が重要な経営課題であることが広く認知され、より早いタイミングで計画的に事業承継を行う経営者が増えつつあることを示しているのかもしれません。
―親族外承継の手段として、M&Aが注目されています。
豊永 親族内承継が難しいとされる場合に加えて、既存事業をさらに発展させるためにM&Aを選択するケースも増えてきています。例えば関東と関西など地域の異なる会社が組んで事業や商圏を拡大する、あるいは川上の会社と川下の会社が組んで製造から小売り、その後のサービスまで一気通貫して手がけるようになるといったケースです。これは売り手と買い手の両方に言えることですが、技術と技術、人と人が融合すればシナジーが生まれ、競争力が高まります。いずれにしても、M&Aを選択する経営者は今後増えていくでしょう。
―ファンドが譲り受けるパターンも多いと聞きました。
豊永 M&A自体を目的とするファンドが事業承継全体の中で大きなボリュームを占めるまでには至っていませんが、注目したいのは事業承継ファンドです。これは経営者が入れ替わる過渡期に経営を支えるファンドで、新しい後継者を探しているタイミングや育成期間において活用する企業が増えています。当機構のファンド事業部はこれまで288のファンドを組成しましたが、このうち事業承継ファンドも34あり、百社に近い事業承継に関わりました。ファンドを活用した事業承継は、確実に増加傾向にあります。
―選択肢が多くて、事業承継検討中の経営者も迷ってしまいそうです。
豊永 事業承継は経営のノウハウだけでなく、税制や個人保証などの多様な問題が絡みます。金融機関や税理士、公認会計士、中小企業診断士など関連する相談相手も多いですから、経営者は支援機関それぞれの強みを見極め、活用していくことが求められています。
私たちも、政府が各都道府県に設置する事業引継ぎ支援センターにおけるマッチングのサポートに努めてきました。過去8年間では、2400件のM&A成立実績があります。現在はさらに全国規模でのマッチングもサポートできるよう、データベース環境を整えているところです。

―事業承継に向けて、経営者はどのような準備をすればいいでしょうか。
豊永 アンケート調査では、後継者を見つけて育てるのに平均10年かかるという実態が明らかになっています。だとすると、経営者は自分が一線を退く10年前には準備を始めなければならない。後継候補者の説得や育成には時間がかかりますし、税制や資金面のことを考えても、できるだけ早く準備を始めるべきでしょう。
―最後に事業承継に悩む経営者へのメッセージをお願いします。
豊永 企業の収益力は、若い社長のほうが高いという民間調査機関のデータもあります。事業承継は企業や事業の承継、また、さらなる発展のために重要な課題ですが、加えて若い後継者への早いバトンタッチは、攻めの経営へシフトするきっかけにもなります。人や技術、のれんといったリソースを引き継ぐことで企業が存続・発展するばかりでなく、従業員の方々の暮らしや地域経済も安定します。そのような企業の集積は、地域ひいては日本という国の発展にもつながっていく。ぜひ広い視野を持って事業承継を考えていただきたいですね。