「成長する企業」が健康経営に注目する理由 従業員と企業が持続的成長を遂げる経営戦略

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このように課題を把握し、日常の動線上で解決策に取り組むことは非常に重要です。そして、健康経営の取り組みにおいては、経営者や職場のリーダーが、従業員に寄り添い、取り組みに対し評価することも大切です。企業として従業員と一丸となって取り組むことで、職場のコミュニケーションや創造性の向上にもつながることが健康経営のダイナミズムといえます。

健康経営で得られる企業のメリットは1つではない

―健康経営が生み出すメリットとは何でしょうか?

古井 健康経営によるメリットは、その取り組みの進展で複合的に表れますが、大きく4つあるといえます。1つ目は従業員が健康になって、生き生きと働くこと。私たちの研究では、従業員の健康増進は仕事に対するモチベーションや労働生産性の向上にも影響を与えていることが示されています。体調不良に伴う労働生産性の損失額は年間1人当たり170万円にも及び、健康な従業員に比べて100万円以上高くなっていました(出典:古井祐司、村松賢治、井出博生「中小企業における労働生産性の損失とその影響要因」/日本労働研究雑誌 2018年6月号 No.695 49−61)。2つ目は健康経営によって、取引先や株主といったステークホルダーからの評価が高まること。3つ目はコミュニティーの活性化です。健康経営の先進企業は他社のお手本になることが多く、地域住民にとっては誇りとなり、地域社会全体における健康への関心を高めることにつながります。4つ目は環境に与える影響です。これは環境経営の取り組みなどと同様に、健康経営を続けることで、持続的社会の実現に貢献できるのです。

―他方、海外の健康経営に関する取り組みはどうでしょうか。

古井海外でも健康経営の取り組みは進んでいます。スリランカのように日本の健康経営をそのまま輸入する国もあれば、米国では今年から「カルチャー・オブ・ヘルス」というプログラムが創設される大学もあり、企業や自治体などで健康文化を醸成するためのリーダーシップ研修が始まっています。ただ、海外においては日本のような皆保険制度がない国がほとんどであり、健康データの高い捕捉率を背景に、職場や地域の健康課題を可視化する「データヘルス」を活用できる強みは日本が一歩抜きんでているといえるでしょう。

東京大学でも、全国の健康保険組合のほぼ100%に参画をいただき、2018年1月より「データヘルス・ポータルサイト」を本格稼働させました。今後、職場や地域の健康課題を解決する効果的な取り組みを、業種や働き方によってパターン化し、皆さんに広く活用していただきたいと考えています。そうして作り上げたノウハウが、日本だけでなく世界の健康課題を解決するソリューションとして活用される日もそう遠くないのではと感じます。

―今後、健康経営は日本でどのように浸透していくとみていますか。

古井 健康経営に取り組みたいという経営者は増えており、むしろ、どうすれば健康経営の効果が出るのか、その方法を探る第2ステージに入っていると感じています。先行している取り組み事例や官民のサービスを活用することも次の一歩につながると思います。

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