「学び続けるトップ」こそ企業の成長を加速する 労働時間を減らすことばかりが改革ではない

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「労働時間を減らして、せっかく自分で好きに使える時間を増やしても、その時間を使って毎日遊んでばかりいる、という状態になってしまっては本末転倒です。シリコンバレーには、毎日夕方6時頃に仕事を終えると、車を飛ばしてサンフランシスコに行き、ハッカソンなどに参加する人がたくさんいます。相当な金額の年収をもらっているエンジニアでさえ毎晩そんなことをしているんです。彼らは大手企業に属していても、決して一生安泰ではないという危機感を持っている。つねに成長を求めるマインドで彼らは日々、戦っているのです」

働き方を変え、より短い労働時間でより多くのアウトプットを出す。そのためには短くなった労働時間によって空いた時間に、一人ひとりが学び、自らの能力開発をしていかなければならない。企業側としては、そうした個々人の学びをきちんと評価し、組織の成長に結びつけていくような経営改革や組織改革をしていくことが必要であり、経営層にはマインドセットの変革が求められるのである。

鍛えるべきはどこに行っても通用する力

こうしたマインドセットの変革において大事なのは「アンラーン(Unlearn)」だと田久保氏は語る。「アンラーン(Unlearn)」とは、学びを否定することではない。今までに学んだことや成功体験、思い込みをいったんリセットするというような意味だ。

田久保善彦(たくぼ よしひこ)氏 グロービス経営大学院 経営研究科・研究科長
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、三菱総合研究所にて、調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールにて企画・運営業務・研究などを行いながら教鞭を執る。修士(工学)、博士(学術)

「自らの経験をもとに、『昔は』とか『海外では』などの言葉を言う人がいますが、過去の経験や知識を捨て去る勇気を持たないと新しい学びはできません。その時の先端技術であったとしても、いつまでもそれにしがみついていると、その技術が陳腐化したときには何の役にも立たなくなってしまうのと同じことです。もちろん、学校に行くだけが学びではありません。刺激し合える友人のネットワークを社外につくることも学びになりますし、何らかのコミュニティーに所属する、またはコミュニティーを自分でつくるなどして、多様性や競争のある環境に身を置くことも学びを促す大事な要素です。もちろん仕事自体が最大の学びであることは言うまでもありません。IQ、EQの次はAQ、つまり適応能力(※)だとも言われていますが、これからの時代に生き残っていくのは、状況に合わせて自己を変革し続けられる人でしょう」

では、何を学べばいいのか。ITなどの先端技術か、それとも最新のマーケティング理論だろうか……。もちろんそうした知識も大切だ。しかし変化の激しい時代、どんな専門技術も明日には新たな知識や技術に取って代わられてしまうかもしれない。田久保氏は多様化が進む今の時代こそ論理的思考力や非言語を含むコミュニケーション能力、自らが学び続ける力といったベーシックな能力が重要になると言う。陳腐化することのないそうした力を持つ人は、「旬の専門性を持つ人」をうまく活用できるのだ。

企業側にとっては、社員の教育のために組織として学びの場を提供することも重要となってくる。個人の市場価値が高まることは、企業にとっては優秀な人材の流出につながりかねない、と危惧する経営層もいるかもしれないが、そこを躊躇していたら、そもそも優秀な人材が集まってこなくなると田久保氏は言う。

「さらに重要なのは、トップが学び続け、変えることを厭わない姿勢を見せること。そうすることで、学びの連鎖が起き、組織全体の成長につながるのです」

1日の多くの時間を仕事に充てているビジネスパーソンにとって、「働き方改革」とは、「生き方改革」でもある。人生100年時代、どう生きるかと考えた時に、「学ぶ人生」と「学ばない人生」の間に大きな差がつくのは想像にたやすいだろう。働き方改革を通じて、よい学び手になること。グローバル競争時代を勝ち抜く道がそこにある。

※IQ:知能指数、EQ:Emotional Intelligence Quotient=感情指数、AQ:Adaptability Quotient=適応指数