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企業の「残業規制」がほぼ失敗に終わる理由

長時間労働を放置することのリスクとは?

中原教授は「失敗する企業には大きく2つのパターンがある」と指摘する。1つは外科手術だけ実施し、あとは放置するケース。もう1つは施策を小出し、あるいは分散して実施して社員が「改革疲れ」を起こしてしまうケースである。ある企業では10近い部門がバラバラに長時間労働是正策を始めてしまい、タコツボ化して現場を混乱させているという。

「結局、成果を出すには作戦が必要なんです。トップが働き方改革の目的を『政権の施策だから』、『人事的にやらなければいけないから』と説明している企業はうまくいきません。トップ自身が経営課題として捉えていないからです。それでは現場の管理職や社員を巻き込むロジックはつくれません。『これはわが社の持続的発展のために必要な取り組みである』と認識することが何より必要です」

「長時間労働」から「長期間労働」へ

日本企業の生産性の低さが指摘されて久しいが、生産性を上げるには新しい物事に投資して既存のビジネスを置き換えるような商品、サービスをつくっていくことと、社員のスキルや能力を底上げし、高いスキルを持った社員に長期的に働いてもらうことが重要である。

ところが一般に日本企業の人的投資は新入社員の時期に偏っていて、後は「とにかく働け」となり、長時間労働に従事するため学びから遠ざかってしまう。22時まで働いて23時に帰宅する毎日だったら、学ぶ気力など起きないだろう。

つまり、企業は社員の学びに対して金も時間も与えず、社員には学ぶ余力やネットワークを構築する時間もない状況がある。これでは社員のスキルや能力は向上しないままであり、新しいことに興味がなく、1つのことを粛々とやり続けるしか能のない、市場価値ゼロの人材しか育たないのである。

中原 淳
立教大学経営学部教授
立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等を経て、2018年より現職。

「経営者や管理職には『長時間労働をやめたら若手が育たなくなる』という方が多い。しかし、長時間労働をやめれば仕事量は減りますが、育たなくなるかどうかは別の話です。むしろ長時間働けば働くほど時間と気力が減って、長期間働くためのスキル形成を阻害します。とくにトップは、持続可能な職場をつくるためにいま存在する経営課題を見える化し、何を選択し、何を評価するかの方針を固めることに職場ぐるみで取り組むことが必要です。結局のところ、ルールを守っている会社にとっては『働き方改革』は選択の問題にすぎません。するかしないかは、経営者の好きなようにすればいいですが、変化を嫌う会社が、優秀な人材に選ばれるとは思えません」

長時間労働は、従業員に自由な時間を与えないため、必然的に外部から遮断することにつながり、人材を囲い込むことができていた。それが、SNSやブログなど、さまざまなツールの発達により情報が入手しやすくなった現代では、不可能になっている。いかに優秀な人材を惹きつけられ続けるかが、淘汰されないためのカギとなる中、残業文化の慣行を放置しておくことが企業にとってどういうリスクを持つのか、経営者は今一度考えなければいけなくなっている。