「昭和的働き方」の終焉で何が起こるか? 実は厳しい「働き方改革」がもたらす現実

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「大企業は2020年4月から、同じ仕事に就いている限り、正社員、非正規雇用を問わず同一の賃金を支給しなければなりません。不況が続き、企業は非正規雇用者で人件費を抑制してしのいできましたが、正社員との待遇の大きな格差が問題となりました。中小企業に対しては2021年4月から施行されます。低賃金の労働力に頼った業界、企業は人件費が増大するでしょう」

改革の本質は、多様な人材が働ける会社にすること

経営層や人事担当者は従来のマネジメントからの脱却が必要になるという。とくに、これまでの人事戦略の発想を根本的に変え、多様な人材に合った賃金制度や評価制度の構築が急務となる。

「働き方改革の目的は、単純な労働時間の短縮ではありません。その本質は、さまざまな制約(育児・介護・病気・障害・外国人・高齢者など)を抱えている、多様な人が働ける会社にすることです。また、週末は家族との時間や、趣味を楽しみたいなどといった価値観の人もいます。人手不足の時代では、さまざまな制約や価値観の人を雇用していく必要性に迫られ、その人のパフォーマンスを最大限発揮させるマネジメントを考える必要があります。そのためには、『人事戦略は経営戦略』という発想を持つことです。人事制度に魅力のない会社は離職者が増加するうえ、人も集まらないでしょう。人事は単なる手続き屋ではなく、経営戦略そのものなのです」

だからこそ、人事も経営会議に参加して意見することが重要だと主張する。

「経営会議に人事部長が参加していない企業は多いです。しかし、人事部も一緒に経営戦略を考える立場だと認識してほしいです。人事担当者も経営戦略を理解して、事業計画のどの現場に、どういう人材を何人採用すべきかなど提案は必要です」

また、転勤制度の改革も必要だと倉重氏は話す。転勤は育児や介護などの制約を抱えた人にとって、離職の大きな要因となる。

「日本の企業では、解雇は相当な理由がないとできない分、人事権は強いです。しかし、転勤を当たり前とする従来の人事権を行使し続けると、有能な人材の離職が増えるでしょう。多様な人材を雇用するには、転勤しない人事、評価制度も構築すべきです。ITツールが発達し、これから在宅ワークが増えていく中で、転勤して現場に行く必要性がどこまであるのか。幹部登用するうえで、転勤要件は本当に必要なのか考えるべきです」

個人のスキルに賃金が支払われる時代に

働き方改革は会社側の改革だけではなく、社員や労働者にも意識改革が求められるという。法改正はある意味、労働者側にとっても厳しい状況をつくり出すと倉重氏は言う。

倉重・近衛・森田法律事務所
代表弁護士
倉重 公太朗 
慶應義塾大学経済学部卒。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)が得意分野。企業内セミナー、経営者向けセミナーなど多数開催。東洋経済オンラインにて「検証!ニッポンの労働」の連載を持つ。

「同一労働同一賃金を推し進めていくと、『正社員だから』賃金が多いのではなく、最終的には『あなたは何のスキルがありますか?』との点が問われてきます。究極的にはその人のスキルに賃金が支払われるようになるでしょう。肩書きがなくなったときの市場価値を、一人ひとりが意識しないといけない時代になるのです。だからこそ、労働時間の上限規制でできた時間をどのように使うかが鍵になります。早く帰れるようになったからといって、その分、飲みにいってばかりだったり、ダラダラしていたり、何もせずにいるようではもったいない。余った時間を何に使うかは個人の生き方に委ねられています。自らスキルアップを続ける人とそうでない人では、10年後に相当な差が出るでしょう。企業ですら10年後はどうなっているかわからない時代です。働く人も一人ひとりが変革意識を持つべきでしょう。働き方改革は『生き方改革』でもあるのですから」

従来の終身雇用、年功序列の昭和的働き方が限界を迎え、ビジネス環境が激しく変化する時代、5年後、10年後の立場が保証されるかは誰も見通せない。法制度の改革はスタートを切ったが、本当の働き方改革には、倉重氏の「生き方改革」というメッセージを意識していくことが必要だろう。