「技能」で勝負!ダイキン支える137人の熱闘 AI時代だからこそ追い続ける、匠の技

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今年2月、鳥取県鳥取市に、世界中から選抜された総勢137人もの技能者たちが集った。国籍・言語・年齢・性別すべてさまざまな彼らだが目的はただ一つ、「ダイキン技能オリンピック」(以下、技能オリンピック)に参加すること。ものづくりの現場で日々培った技能の高さを競い合い、上位入賞を狙うというこの大会、いったいどんな競技が行われているのか。そもそもAIやIoTなど最新テクノロジーが大きく注目される今、「技能伝承」にこだわり続けるダイキンの狙いとはどこにあるのだろうか。

隔年で実施されている「技能オリンピック」。第8回目となる今回は、ダイキンのグローバル研修所「アレス青谷」(鳥取市)で開かれた。日本のほか、欧州、中国、アジア・オセアニア、北米など12カ国、28拠点から全137人の技能者が集結。トップの座を狙って腕をふるい、大きな盛り上がりを見せた。

藤縄 昭
ダイキン工業 役員待遇
空調生産本部

現場を統括した同社空調生産本部の藤縄昭氏は、こう振り返る。「海外の技能者の実力は年々向上しています。今年はとくに、欧州勢の上位入賞が目立ちました。海外からの参加者が競技前に円陣を組んで気合を入れていた姿、会場の壁に各拠点から寄せられた大量の応援メッセージが張り出された光景などがとても印象的。世界中から集まった技能者たちの、この大会にかける思いの強さが感じられました」。

技能オリンピックの種目は、ダイキンが定めた「戦略技能職種」から設定されている。空調分野の「ろう付け」「アーク溶接」ほか全9職種に、化学部門の「化学プラントオペレーション」を加えた計10職種だ。中でも参加人数の多い「ろう付け」は、エアコンが空気を冷やしたり暖めたりするために必要な「冷媒ガス」が流れる、配管同士を接合するもの。冷媒が正常に流れないとエアコンが効かなくなるため、商品の品質に直結する重要な技能だ。

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藤縄氏も「ろう付けは、接合部分に純金属や合金などの“ろう材”を炎で加熱して溶かし込み、母材を溶かさずに接合させる工法。ろう材を溶かしすぎると、細い配管の中に入り込んで冷媒ガスの流れが悪くなってしまい、逆に加熱が足りなければろう材が十分に浸透せずに隙間が空き、冷媒ガスが漏れてしまいます。炎の色の一瞬の変化を見極めて瞬時に判断を下し、かつ正確に作業する必要があります」と語る。まさに長年の経験と勘がものをいうわけだ。

一方「化学プラントオペレーション」は、ガスや樹脂などのフッ素化学製品の生産設備に異常が発生した際の、処置技能を競う。近年は異常が発生する以前の潜在的課題の発見・解決や、異常発生時の作業負荷削減を目的とした改善活動により、トラブルは減少している。しかしその一方、現場担当者の危険察知能力が不足すると懸念されている。

「これは、設備の変調によって生じた異常値を正常値に戻す技能。ものづくりの現場では、ほんの小さな異常が重大事故につながる可能性があります。どれだけ機械の性能が上がっても、危険を察知し適切に処理する能力は非常に重要なのです」

目指せ「世界同一品質」!グローバルメーカーの責任

現在、世界150カ国以上で事業展開しているダイキン。海外売上高比率は約76%、全従業員7万人超のうち8割ほどが海外勤務だ。そんな同社が技能オリンピックを主催する背景には、グローバルに事業を展開する空調メーカーならではの理由があった。

世界中から集った技能者たち(写真は一昨年開催時のもの)

「グローバルメーカーとして、われわれが目指しているのは『世界同一品質』です。すべての製品を1カ所で生産していれば同じ品質にしやすいですが、当社には世界で90カ所以上の生産拠点があります。とくにエアコンは、天候の変化によっても需要が変動するため、急激な需要の変化にも対応できるよう、販売する場所の近くで生産する『市場最寄化戦略』をとっているという背景があります。

技能オリンピックでは、情熱を持った世界中の技能者が高度な課題に挑戦し切磋琢磨することで、技能のレベルを高めたいという狙いがあります。そしてゆくゆくは、入賞するような優れた技能を持つ技能者を世界中に派遣することで、技能を伝えていきたい。そうすることにより高品質なものづくりを実現し、世界中のどの拠点でも同じクオリティーの製品を作れる体制を持つのが目標です。技能オリンピックは、単に技能の世界一を日本で決めるというだけでなく、海外拠点の自立を加速させる狙いもあるのです」と藤縄氏は胸を張る。

AIやIoTといった最新テクノロジーが注目を集め、ビジネスにも活用されつつあるこの時代。世の流れと一見相反するように見える「技能伝承」にダイキンがこれほどこだわるのにも、もちろん理由がある。

「技術の進歩により、人間がやっていた仕事が機械の仕事に置き換わることは当然あるでしょう。だからこそ、人の手でするべき部分と機械に任せるべき部分、それぞれのすみ分けが重要になります」と、藤縄氏は力強く語る。「例えば製造ラインに機械を入れるのも、その機械のプログラミングをするのも人間。その時、製品の仕組みや作り方といった”原理原則”を理解していることが大前提です」。

ものづくりには「生産」と「生産技術」という2つの柱がある。このうち「生産」を構成するのが、技能と「PDS」。PDSとは”Production of DAIKIN System”の略で、ものづくりに対する基本的な考え方を示したもの。世界中で多機種のエアコンを提供し続けているダイキンの、生産部門における軸となっている概念だ。この「生産」に、生産ラインの自動化や最新のテクノロジーなどからなる「生産技術」が加わって初めて、高品質なエアコンを安定的に作ることができる。

加えて、ダイキンの商品はショッピングモールなどの大型空間を空調するアプライド商品や店舗、オフィスなどの業務用エアコンから、フラッグシップ商品「うるさら」に代表されるルームエアコンに至るまで非常に幅広い。機能やデザインのマイナーチェンジも頻繁に行われるため、製造過程をすべて自動化するのは不可能だ。

ダイキンはIoTなどテクノロジーをフルに活用し、熟練技能を効率良く次世代に継承するべく取り組んでいる

そんな中、技能伝承にも最新テクノロジーを活用するべく、ダイキンは日立製作所と協働して「ろう付け教育支援システム」を開発している。「IoTや画像解析技術を応用して、定量的な評価や解析を行い、技能を効率的に伝承させるものです。例えば部品を接合する時の手の角度1つとっても、勘とコツがものをいう世界。それをテクノロジーの力で、正確かつ迅速に伝承できるようになるんです」(藤縄氏)。

IoTを活用して、優れた技能伝承の一助とする。さまざまな角度から社員の成長を図るこうした取り組みは、まさにダイキンが創業以来の理念としている「人を基軸におく経営」にもつながる発想だ。

技能者たちを鼓舞する、ステージアップの仕組み

今年の表彰式の様子。海外勢も多くいる

さらなる技能者の育成強化を目指し、ダイキンが10年前から導入しているのが「マイスター・トレーナー制度」だ。とくに卓越した技能と指導力を持つのがマイスター、それに準ずる力を持つのがトレーナー。技能オリンピックからトレーナーが生まれ、彼らがさらに優れた力を身につけてマイスターに昇進していくというサイクルが確立されており、技能者たちのモチベーション維持に大きく貢献している。

彼らの成長を間近で見ている藤縄氏は、今後の展望についてこう語る。「現在、マイスターは40名、トレーナーは120名います。16年には中国、北米などでも技能伝承委員会が設立され、日本と同様に技能伝承を協議できる体制が整ってきました。今後もグローバル規模で、優れた技能者の育成に邁進していきたいですね」。

ダイキンはこのように、これまで育んできた技能を伝承しながら、AIやIoTなど最新技術の活用もさらに推進していく考えだ。業界を牽引する空調専業メーカーとして、高品質なエアコンを世界中に届けている同社。”世界同一品質”の実現に向けた飽くなき挑戦は、これからも続いていく。

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