
預貯金照会業務はいまだ手作業
「行政機関が金融機関に要請する預貯金照会業務。いまだここには手作業が残っており、多大な労力とコストがかかっています」と語るのは、NTTデータの山田圭氏。例えば都道府県税や市区町村税、生活保護の受給申請、国税に関する脱税調査、さらには年金保険料滞納時の財産調査などで、行政機関側から金融機関に預貯金状況の調査を実施している。近年問題となる不正受給の抑止や、税公金の公正性担保のためには不可欠な業務だ。
第二公共事業本部
社会保障事業部 社保第三統括部
第六システム担当 課長
山田 圭
しかし、このやりとりには行政機関ごとに異なる様式の書類が使われ、郵送でのやりとりや書類の保管など金融機関側で多大なる労力がかかっている。現場の課題をNTTデータの岩﨑麻由子氏はこう語る。
「ある大手銀行での照会依頼数は、月間で数十万件にも上るため、専門のセンターで専属の人員が対応にあたっています。行政機関によって異なる依頼様式にのっとって1件1件手作業で対象者の情報を探し、その回答を紙ベースで作成し郵送する地道な作業です。
その過程では個人情報保護への配慮なども当然必要で、書類の運用や保管も極めて厳重に管理する必要があります。このように多大な負担となっているにもかかわらず、金融機関は基本的には無償で照会依頼に対応してきたのが実情です」
第二公共事業本部
社会保障事業部 社保第三統括部
第六システム担当 課長代理
岩﨑 麻由子
もちろん、行政機関側の悩みも大きい。書類送付の手間もあるが、何よりも金融機関からの回答に時間がかかることが課題だった。
「金融機関から行政機関への回答は通常でも1~2週間程度、長いものだと2カ月近くかかる場合もあります。生活保護の受給申請に対しては申請から2週間以内に保護決定をする必要があるのですが、金融機関側の負担が大きいために、どうしても調査に時間を要していました」(山田氏)。
低コストで電子化と統一フォーマットを実現
こうした課題を解決するためにNTTデータが開発したのが、預貯金照会業務の電子化サービス「pipitLINQ(ピピットリンク)」だ。行政機関と金融機関が「pipitLINQ」に加入することで、電子データによる預貯金照会が可能となり、人的負担やコストを大幅に削減できるほか、回答までのタイムラグを大幅に短縮することが可能になる。
仕組み自体はシンプルだが、NTTデータにしかできない工夫が多い。その1つが「セキュアなシステムを低コスト」で実現していることだ。
「行政機関側では総合行政ネットワーク『LGWAN』を活用し、金融機関側では日本国内のバンキングサービスとして多くの金融機関に導入いただいている当社『ANSER』の仕組みを活用しています。高度なセキュリティーや信頼性を含め実績のある既存の仕組みを利用することで、低コストを実現しています」と開発を担当するNTTデータの田口真悟氏は自信を見せる。
※1 2016年に成立した官民データ活用推進基本法及び17年に策定されたデジタル・ガバメント推進方針に示された方向性を具体化し、実行することによって、安心、安全かつ公平、公正で豊かな社会を実現するための計画で、特に電子行政分野を深掘りし、詳細化している
NTTデータでは2017年よりいち早く関係機関との勉強会を発足。中央省庁、地方自治体、銀行、生命保険会社の8庁4自治体、11行・社から課題の吸い上げを徹底的に行った。
これだけの団体が勉強会に集まったのは、これまでの公共分野・金融分野におけるシステム提供の実績があるからこそといえる。つぶさにそれぞれの様式の要望をくみながら統一フォーマット化を実現できた意義は大きい。もちろん誰もが扱えるよう、簡易な操作性にもこだわった。
実務検証を経て導入 新サービスの提供へ
18年8月からは、3自治体4部署、1銀行と信用金庫1行による実務検証も行われた。これは実際の業務の中で「pipitLINQ」を活用し、預貯金照会を行うというもの。実データを扱うため、セキュリティーへの配慮も本番さながらで行われた。回答期間および作業時間について、現状と電子化後を比較した結果、圧倒的な効果が表れたという。
これまで、数週間あるいは数カ月かかっていた回答が、翌日もしくは3日後には回答された。金融機関側の作業時間は61~99%の削減、行政機関でも29~55%を削減する結果となったのだ。
「預貯金照会業務の電子化は、関わる機関が横並びで始めなければ意味がないと言われてきました。確かに理想としてはそうなのですが、今回の実証実験に参加されたお客様からは、たとえ1行、1行政との連携だったとしても、作業の自動化やあまりに違う回答のスピードに、メリットは十分あるといった声をいただけました」(岩﨑氏)
19年7月からサービスを開始する「pipitLINQ」だが、山田氏は今回のサービス開始はあくまでもNTTデータが目指すデジタル・ガバメント実現の第一歩にほかならないという。
「『pipitLINQ』は、クラウドサービス『OpenCanvas※2』をシステム基盤としているため、今後の拡張も容易です。統一フォーマットについても、マイナンバーなどを視野に入れた設計となっています。今後参加省庁や団体、さらには連携データを拡大し、例えば煩雑な相続手続きをワンストップで行うなど、利用者の利便性を向上させるサービス提供につなげる計画です。今回のサービス開始を皮切りに、広く社会課題の解決を目指していきたいと考えています」
まだ第一歩を踏み出したばかりだというNTTデータの取り組みだが、社会を劇的に変える可能性を大いに秘めており、今後も目が離せない。
※2 NTTデータが提供する金融機関向けクラウドサービス
