リクルートホールディングス

現場の声に寄り添う「HRテクノロジー」 「人事×テック」でエンゲージメント最大化

こんなケースもあった。

別の新人がミスをして、マネジャーの指導を受けた。周囲からは、新人が落ち込んでいるように見えたという。ところが、サーベイには「叱られたことで成長の機会を得られた」との記載が。実際は周囲の認識と逆で、本人は静かに燃えていたことがわかったのだ。

状況を報告するだけなら、一般的な日報でも可能かもしれない。しかし、興梠氏は今回のツールのメリットを次のように強調する。

「チャットツールと連携しているので、情報共有がタイムリーです。データとして定量化できることも大きいですね。新入社員のコンディションを定量化できれば、一人ひとりに個別に対応するだけではなく、組織的な人事施策を打つこともできます」

西川氏も続ける。

「定量化されたデータを分析すると、上司との縦の関係だけでなく、社員同士の横のつながりもコンディションに影響することがわかりました。そこで、他チームのメンバーとのランチ会を企画したり、部活を立ち上げたりしました。とくに部活は今でも継続されています」

現場を主語にしたHRテクノロジーの開発

実際、どのくらいの定量的効果があったのか。システムを導入した組織のeNPS(従業員エンゲージメントの指標)は、導入していない組織と比べて12ポイント高かったという。「12ポイントは、簡単に言うと業界平均と業界トップくらいの差です。導入した組織のエンゲージメントの改善幅はかなり高かったといえます」(西川氏)

マネジャーの負担を増やすことなく、新人の成長を支援する同社の取り組みは、着実に実を結びつつある。しかし、ITを活用して同様の課題に取り組んでいる企業は多いものの、必ずしも順調なところばかりではない。2人はなぜうまくいったのか。興梠氏は次のように分析する。

「HRテクノロジーは、人事部門やIT部門が主語になり、現場が置き去りにされがちです。しかし、大切なのは、現場が使いたいと思うかどうか。僕らは『現場マネジャーの"強化スーツ"になればいい』という思いで、ユーザーエクスペリエンスに徹底的にこだわりました。つまり、現場を主語にしたことが功を奏したと考えております」

一方、西川氏は、既成の枠組みにとらわれずに挑戦させてくれる組織風土について言及した。

「今回のプロジェクトは上からの大号令で始まったわけではなく、興梠さんと2人でスモールスタートしました。今だから言えることですが、実は、現場のマネジャーたちを巻き込んで『いいね。そんなシステムがあったらほしい』という反応を確かめてから、人事部長に話を上げました。人事部長は一発で了承してくれ、このボトムアップ文化はリクルートらしいと改めて感じましたね」

興梠氏も同じことを感じていたようだ。

「長い歴史を持つリクルートは、マネジメントのスタイルが確立されているイメージがありました。ただ、私は入社したばかりだったので、リクルート流がわかりませんでした。そこで、プロジェクトを学術的な視点で、部内のメンバーにプレゼンしたところ、『面白い』と好感触を得られました。私なりのやり方を歓迎し、楽しんでくれたので、進めやすかったです」

今後もさらなる改良を続けていくという。

「支援する期間を延ばして、自分の成長を振り返ることができる仕組みにしていきたいです」(西川氏)

「新人だけではなく、部署異動した社員にも使えるようにしたいです」(興梠氏)

若手2人で始めた小さなプロジェクトは、徐々に広がりを見せ、2019年2月現在、グループ内の組織が利用している。興梠氏が所属するリクルート人事統括室人事戦略部では、データサイエンティストやエンジニアが活躍しており、「人事」と「テクノロジー」のコラボレーションが着々と進んでいるという。

AIやRPAなど、新しいテクノロジーの導入は、ともすればそれ自体が目的になってしまいがちだ。リクルートがそうならなかったのは、「どこまで現場の社員を尊重し、寄り添えるか」にこだわり抜いたからだろう。つまり、デジタル化が進展しているとはいえ、「企業」は「人」で成り立っているのだ。それを見失わないことこそが、これからの時代を生き抜くうえで最も必要なことなのではないだろうか。

お問い合わせ
リクルート
「働き方改革の本質」とその先にあるもの
第1回 蓄積された「現場の知見」をAI活用で自動化
第3回 テクノロジーが切り開く新しい教育のカタチ