乱戦のフィンテック業界、生き残りの条件 ブレない思想を貫けないサービスは淘汰必至

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金融とITを融合したフィンテック市場が活況だ。とくに、決済・送金サービスに関しては、大手やベンチャーなど企業規模を問わず新たなサービス創出が続く一方で、顧客の囲い込みのための競争も激化している。送金アプリpring(プリン)代表取締役CEOで、経済産業省のフィンテックに関する検討会の委員なども務める荻原充彦氏は、「将来的にはサービスの寡占化が進む」と群雄割拠状態は長くは続かないと指摘する。市場の将来像や生き残りための条件を聞いた。

決済・送金サービスが近い将来、一気に浸透

―― 日本では今、さまざまな決済・送金サービスが生まれ、大型のポイントバックキャンペーンなども話題を集めています。

pring
代表取締役CEO
荻原 充彦
大和総研情報技術研究所を経て、大和ネクスト銀行の立ち上げに携わる。2012年からDeNAにてEC事業戦略室および決済代行事業にて新規事業の立案に従事。14年にはメタップスに参画し、決済サービスSPIKEを3年で黒字化。17年にみずほFG、WiLと共にpringを立ち上げ、同社代表取締役CEOに就任

荻原 スマホ決済市場への参入企業が増え、複数の決済サービス会社間でユーザー獲得のためのキャンペーン合戦が続いている状況です。実際、キャンペーンをきっかけにQRコード決済などのサービスを使い始める人が増えていますが、キャンペーンが終わった後でも、引き続き使う人がどれだけ残るのかという点では疑問もあります。

現状は、どの企業も収益化が見えづらいところではないでしょうか。かつてフリーマーケットアプリや仮想通貨取引所に多くの企業が参入しながら、その後は撤退するところが相次いだように、決済・送金サービスについても将来、寡占化が進んでいくことも考えられます。

―― 北欧や中国に比べて、日本はキャッシュレス決済などのサービスの広がりや活用が遅れているといわれることが多くあります。

荻原 普及率という点では、それらの国に水をあけられているのは確かです。ただし、これらの国でキャッシュレス決済が広がった背景には、政府の主導により国策として導入されたという経緯があります。日本でも2019年10月に予定されている消費税増税や20年に向けて、政府がキャッシュレス化促進の施策を強く打ち出しています。11年7月にテレビのアナログ放送が終了しデジタル化が一気に進んだように、日本のキャッシュレス化が大きく前進する可能性があります。

さらに、これまでと異なる背景として社会コストの問題が無視できないほど大きくなっているということが挙げられます。

社会コストの削減がますます大きな課題に

―― 「社会コストの問題」とはどのようなものなのでしょうか。

荻原 人手不足の深刻化に伴い、さまざまな現場で、これまで許容できていたコストがかけられなくなっている、つまり背に腹は代えられないような状況になっているのです。

例えば、タクシーのドライバーさんにとっては、釣り銭を用意するのが手間で、深夜に釣り銭が不足したときはコンビニで買い物をして用意するといったこともあるそうです。さらに現金精算の場合、営業所に戻ってから売り上げを締めなければなりません。飲食店や商店などのレジ締めも同様で、企業にとっても従業員にとっても大きな負担になっています。

これが、体力のある大手企業では、人手が集まらないために営業時間を短縮するようなところも出てきています。あるファミリーレストランチェーンでは、完全キャッシュレス、セルフオーダーの店舗を試験的に開設しています。

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