リクルートホールディングス

蓄積された「現場の知見」をAI活用で自動化 「ベテラン×若手」が生んだイノベーション

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現場経験を通してノウハウや知見を蓄積してきたベテランと、現場経験はないもののデータに基づく定量判断ロジックの構築やシステム化に強い若手データサイエンティスト。一般的にはコミュニケーションに苦労する組み合わせだが、2人の場合はうまくかみ合ったようだ。

「システム開発を外部に依頼することもありますが、『何か違う』と疑問をぶつけても、『何かじゃよくわからない。スケジュールに間に合いませんよ』と言われてしまう。しかし、保坂さんは『じゃあ一緒に考えましょう』と受け止めてくれた。おかげで遠慮なく話ができました」(隈本氏)

「正直、『グイグイくるな』と思っていました(笑)。でも、自分の都合で無理難題をふっかけてくるわけではない。共通のゴールに向かうまでの課題をご自身の目線で話してくれたので、素直に耳を傾けることができました」(保坂氏)

プロジェクト立ち上げから約1年。AI配本システムは、2017年7月末に一部の情報誌から運用を開始した。システムがはじき出した実売予測は、前年比2桁%増。予測値を聞いて隈本氏は耳を疑ったという。

「当時は市場環境もダウントレンドにありました。その流れを食い止めようと苦労していたところでしたので、『2桁%増なんて本当か?』と思い、保坂さんにも『数字がおかしい。どこかに間違いがある』と指摘しました。ところが、ふたを開けてみると実売もそれに並ぶ結果に。これには本当に驚きましたね」(隈本氏)

スペシャリティを尊重し、高め合う文化

この結果を受けて、対象を旅行情報誌『じゃらん』や中古車情報誌『カーセンサー』へと拡大。それらの雑誌でも実売は押し上げられた。

「売り逃しが減ったということは、読者が欲しい雑誌を欲しいときに買えるようになったということです。また、システム導入後は売れ残りも減り、収益性が改善しました。その分、雑誌のクオリティーを高めたり、商品を開発したりするための投資ができます。読者やクライアントにとってのメリットも大きいのです」(隈本氏)

今回のプロジェクトが軌道に乗ったのは、「ベテラン×若手」「経験×データ」のコラボレーションがうまくいったからだ。ただ、この組み合わせは、ともすれば不協和音を引き起こす。同社ではなぜ、うまくいったのだろうか。

2人の言葉から読み取れるのは、他者へのリスペクトだ。隈本氏は、若い力についてこう語る。

「キャリアを重ねると成功体験が積み上がっていきますが、同時にそれが陳腐化する場面も多々経験してきました。社内には、高い能力を持った若手が大勢いる。自分のやり方に固執するより、彼らの力を借りながらやったほうが、もっといいものができると確信していました」

一方、保坂氏は社内の多様性を強調した。

「リクルートグループは、異なるスペシャリティを持った人が集まっています。私はデータ分析が専門ですが、チームには、マネジメントに強い人、部署間のコミュニケーションがうまい人、エンジニアリングに長けている人、インフラの専門家など多種多様な人がいます。皆さんがそれぞれのスペシャリティを発揮してくれたおかげで、私も自分の得意なことに集中できました」

リクルートグループには、「個の尊重」という、一人ひとりがお互いを尊重し、高め合う文化が根付いている。激変する時代において、イノベーション創出の土壌となるのは、こうした多様な人材によるコラボレーションを生む企業文化なのかもしれない。

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