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社会人が学ぶべき、ももクロの非常識哲学 現代社会で「朝令暮改」は是である!

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  • ワニブックス 原稿
写真は「ももクロ式非常識ビジネス学」の巻頭より/©池田晶紀
「ビジネスマンこそ、ももいろクローバーZの非常識哲学に学ぶべき」と指摘するのは、『ももクロ非常識ビジネス学 アイドル界の常識を覆した47の哲学』(ワニブックス社刊・12/22発売)を執筆した小島和宏氏。7年間にわたって、ももいろクローバーZに密着取材した小島氏は、その非常識なビジネス展開には、いつも驚かされていたという。

2018年、ももいろクローバーZ(以後、ももクロ)は結成10周年を迎えた。ももクロは、最初期こそメンバーの入れ替えを行っていたが、2011年以降は脱退するメンバーがいても、一切、補充はしていない、アイドル業界においては異色の存在。だが、単なる異色というだけでは10年間も生き延びることはできない。その裏には確固たるビジネス哲学が存在する。

ももクロが取ってきた手法は、業界人から見たら「非常識」の一語に尽きるだろう。現在のアイドルにとって必須と思われてきた要素を、これでもか、と削ぎ落とす大胆な戦略をかなり早い段階から取ってきたからだ。

『ももクロ非常識ビジネス学 アイドル界の常識を覆した47の哲学』
小島和宏著

代表的なものを挙げれば『水着NG』がある。彼女たちは10年を超えるキャリアの中で、一度も水着姿を披露していない。さらに2000年代のアイドル産業を支えてきたといっても過言ではない「握手会」も、6年以上前に完全に撤廃してしまった。

水着グラビアで顔と名前を知ってもらい、握手会で顧客(ファン)のハートを文字どおりがっちり握るというのが、アイドルがブレイクしていく最強のスキームであり、確実にCDを売るための堅実な施策だ。それでも、この方針にこだわったのは、ももクロのマネジメントチームが「我々はメンバーの人生を預かっている」という強い認識を持っていたからである。

ももクロが握手会をやらない理由

アイドルとは「青春時代に完全燃焼するもの」というのが従来の常識であり、だからこそ、短期間で人気をピークに持っていき、効率的に利益を出すのが当たり前のことだった。そして20代前半でグループを卒業する……これが現代アイドルの王道パターンだ。

だが、ももクロの場合「メンバーが結婚しても、長い期間、グループとして活動していく」という方向性を早い段階から公表してきた。つまり、長いスパンで焦らずに考えることができる。だからこそ「水着NG」「握手会をやらない」という決断ができた。

もっといえば、長く活動していくために、彼女たちを急速に消費されることは避けなくてはいけない。水着NGはその象徴であり、握手会をやらないことで体力的にも精神的にも消耗することを避けた。

デビュー直後から、ももクロは「紅白歌合戦出場」「国立競技場でのコンサート」という2大目標を掲げてきた。どちらも実現までには時間がかかると思われていたが、紅白は2012年に、国立競技場へも2014年に早々と到達してしまった。

常識に沿ったグループ運営をしていたら、おそらく、国立競技場が彼女たちのキャリアハイとなり、そこから下降線をたどっていった可能性が高い。だが、コンサートの動員はその後も高い水準で推移し、10周年記念コンサートも東京ドームで開催している(チケットが瞬時に売り切れたため、急きょ、前日に追加公演が行われた)。長期間にわたり、人気を持続できていることこそ特筆すべきであり、同業者が「非常識」だと斬り捨てた戦略の数々が、決して間違っていなかったことを証明している。

ただ、この記事を読んでいるビジネスマンからしたら、これだけでは納得できないだろう。長いスパンで考えて運営するなんてきれいごとだ。人気を維持・拡大できなければ、赤字が蓄積するだけで、活動の継続自体が困難になるではないか、と。

そんな難題を乗り越える原動力になったのが、いわゆる「朝令暮改」である。

マネジメントの意向が昨日と今日とでは180度、変わってしまっていることも多々ある……というのがももクロ現場の特徴だ。その判断基準は明確で「昨日までは面白いと思ったけれども、今日、面白くならないと感じたら、迷わずに前言を撤回する」というもの。イベントの企画を準備してきても、いざ会場に入って「この空間でやってもウケない」と感じたら、これまでのリハーサルや用意してきた小道具などがすべて無駄になってしまっても、即断即決で「やらない」となる。

これは観客のことを考えたら当たり前のことで、「面白くならないとわかっているものを、お客さんに提供するのは失礼だ」という“観客ファースト”の精神を遵守しているだけのこと。とはいえ、その当たり前のことがなかなかできないのが現実だ。

ではなぜ、ももクロの現場ではそれが可能なのか?

それはプロデューサーの川上アキラが、常に現場に出ており、トップダウンで判断することができるから。肩書きこそプロデューサーだが、やっていることは現場マネージャーそのもの。一旦、社に持ち帰って検討する必要もなく、その場で瞬時にGOもNGも出せる。現代のスピード社会においてこれは非常に重要だ。

「観客ファースト」のための決断

当初はメンバーも「昨日と今日とで言っていることが違うじゃん!」と不満を漏らしていたが、今では“観客ファースト”のための決断であることを理解しているから、これまでの準備がすべて無駄になろうとも納得して従うようになった。メンバーが納得すれば、応援しているファンもそれを受け入れる。このようにしてメンバーとファン、運営とファン、マネジメントとメンバーの理想的な関係が築かれていった。この盤石な関係性も長く人気が持続する大きな要因。朝令暮改は「掌返しだ」と叩かれがちだが、そこに確固たる理念があれば、それすらも「是」になるのだ。

ちなみに筆者はもともとベースボール・マガジン社に勤めるサラリーマンだった。のちに『スカパー!』の立ち上げ時には、三井物産の子会社に籍を置いていたこともある。それだけに、常識的なラインで仕事をすることも当然、念頭に置いて動いてはいるのだが、幸か不幸か、筆者が『週刊プロレス』で記者として働いていた時代は、稀代のカリスマ編集長・ターザン山本氏の黄金時代。毎週のように「朝令暮改」と「掌返し」に振り回されつつ、それをプラスにひっくり返す作業に追われていたので、ももクロの「非常識ビジネス」を心地良く受け入れることができるのかもしれない。

今回、執筆した『ももクロ非常識ビジネス学 アイドル界の常識を覆した47の哲学』には、彼女たちが体現してきた実例を47ケースも収録した。「たかだかアイドルの話じゃないか」と高を括っている方もいるかと思うが、既存の概念を覆し、新しいビジネスを開拓するためのヒントにぜひ触れていただきたい。