社会人が学ぶべき、ももクロの非常識哲学 現代社会で「朝令暮改」は是である!
2018年、ももいろクローバーZ(以後、ももクロ)は結成10周年を迎えた。ももクロは、最初期こそメンバーの入れ替えを行っていたが、2011年以降は脱退するメンバーがいても、一切、補充はしていない、アイドル業界においては異色の存在。だが、単なる異色というだけでは10年間も生き延びることはできない。その裏には確固たるビジネス哲学が存在する。
ももクロが取ってきた手法は、業界人から見たら「非常識」の一語に尽きるだろう。現在のアイドルにとって必須と思われてきた要素を、これでもか、と削ぎ落とす大胆な戦略をかなり早い段階から取ってきたからだ。
代表的なものを挙げれば『水着NG』がある。彼女たちは10年を超えるキャリアの中で、一度も水着姿を披露していない。さらに2000年代のアイドル産業を支えてきたといっても過言ではない「握手会」も、6年以上前に完全に撤廃してしまった。
水着グラビアで顔と名前を知ってもらい、握手会で顧客(ファン)のハートを文字どおりがっちり握るというのが、アイドルがブレイクしていく最強のスキームであり、確実にCDを売るための堅実な施策だ。それでも、この方針にこだわったのは、ももクロのマネジメントチームが「我々はメンバーの人生を預かっている」という強い認識を持っていたからである。
ももクロが握手会をやらない理由
アイドルとは「青春時代に完全燃焼するもの」というのが従来の常識であり、だからこそ、短期間で人気をピークに持っていき、効率的に利益を出すのが当たり前のことだった。そして20代前半でグループを卒業する……これが現代アイドルの王道パターンだ。
だが、ももクロの場合「メンバーが結婚しても、長い期間、グループとして活動していく」という方向性を早い段階から公表してきた。つまり、長いスパンで焦らずに考えることができる。だからこそ「水着NG」「握手会をやらない」という決断ができた。
もっといえば、長く活動していくために、彼女たちを急速に消費されることは避けなくてはいけない。水着NGはその象徴であり、握手会をやらないことで体力的にも精神的にも消耗することを避けた。
デビュー直後から、ももクロは「紅白歌合戦出場」「国立競技場でのコンサート」という2大目標を掲げてきた。どちらも実現までには時間がかかると思われていたが、紅白は2012年に、国立競技場へも2014年に早々と到達してしまった。
常識に沿ったグループ運営をしていたら、おそらく、国立競技場が彼女たちのキャリアハイとなり、そこから下降線をたどっていった可能性が高い。だが、コンサートの動員はその後も高い水準で推移し、10周年記念コンサートも東京ドームで開催している(チケットが瞬時に売り切れたため、急きょ、前日に追加公演が行われた)。長期間にわたり、人気を持続できていることこそ特筆すべきであり、同業者が「非常識」だと斬り捨てた戦略の数々が、決して間違っていなかったことを証明している。
ただ、この記事を読んでいるビジネスマンからしたら、これだけでは納得できないだろう。長いスパンで考えて運営するなんてきれいごとだ。人気を維持・拡大できなければ、赤字が蓄積するだけで、活動の継続自体が困難になるではないか、と。